約 2,307,435 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/674.html
第五幕。上幕。 ・・・。 新京都国際会館大ホール。薄暗い照明、設置された数台の大型筐体。 交差する小さな影を見つめる瞳。 筐体のカップホルダー。そこに描かれたMBAというオフィシャルロゴの上。 無造作に置かれたレモンイエローのケータイには大小様々なストラップが賑やかに吊るされている。 そのプレイヤーシートに座る少女。染色された髪の前髪の一部にホワイトメッシュ。細い赤縁の洒落た眼鏡。インカムを付けている耳には右には2つ、左に1つ賑やかにピアスが踊る。 その筐体の中・・・アラートウィンドウと光が踊る戦場を見つめる横顔は、軽薄そうにも見えるが、その視線は真剣そのもの。その瞳には少しの不安と自信が宿るが、絆創膏が貼られた両手を祈るように組んで、彼女はそこをじっと見続けていた。 彼女の名は山県 光。アキと読む。 やがて。 砲台型神姫フォートブラッグが携えた、大きく形状を改造されたライフルの銃弾が悪魔型ストラーフの胸部急所に直撃した。 ドクロのマークのデッドマークが赤く表示され、悔しそうな顔を浮かべながらストラーフが膝をつく。勝利を収めたフォートブラッグはバイザーを上げ、特別感慨も無さそうに・・・それが当然と言うかのように敵であった者に一瞥をくれると。自身のバトルフィールドへの侵入ゲートへ足を向けた。 『バトルロンドエンド。勝者、フォートブラッグ『ルクス』。OFMBA・・・勝敗数・・・』 電子音声と、その戦いのギャラリーであった『ライバル達』の拍手が流れる中。 そのフォートブラッグ『ルクス』は、白と黒だけで彩られた世界を見回した。 いつも通りの視界。ノイズが少し混じっているままで。 「お疲れ様。ナイスやったで、ルクス!」 関西弁が強く混じった声。嬉しそうに、アキが自分のパートナーを迎える。 「・・・ありがとうございます」 そのマスターの祝福に顔さえ上げず、腕を組み。淡々と答えるルクス。 今の戦いに満足してはいないのか、目を軽く閉じ瞑想しているかのように口はそのまま噤まれた。その喜びを表現しようともしない姿に、困ったような笑みを浮かべながら、アキが慌てて付け加える。 「あ・・・うん。どっか、壊れたとか。調子の悪いトコとか無い?」 「マスター。異常ありません」 さらっと答え、ルクスは心配そうな彼女の声を無視する。 まだ何かを言おうとしたアキだが、先のストラーフのマスターが来て、挨拶と祝福への礼を言う事に追われ、それ以上の声をかける事は出来なかった。 自分は武装神姫である。 マスターと自分の誇りの為に戦い、勝利を収める為の存在。 特にフォートブラッグは本格的なショットバトルの為に設計された『砲台型』。主とは完全にバトルパートナーとして在るべきだと、彼女は『正しく認識』していた。 主が戦略を練り、自身が戦術で勝利を収める。それこそが正しい姿である。幸いにもアキは戦略という点では問題は無い。ならば自分にはそれに答える義務がある。 そこに間違いなど・・・。 それから一時間後。これで勝てばベスト4という試合が始まった。敵はアーンヴァルタイプ限定型のカスタムモデル・・・それも随分と神戸で名の知れた実力者。 しかし此処で負けているわけにはいかない。 その戦闘の途中。 彼女は一瞬、丘陵の段差に足を取られた。 ほんのワンミスでしかない。 しかし、この戦場には、『ここまで勝ち上がってきた者』しかフィールド内にはいないのだ。それを見逃すはずもないアーンヴァルのアルヴォが火を噴き、彼女のバイザーを跳ね上げた。幸い、直撃ではなかったが・・・。 「・・・っ!」 ヂヂッという音と共に、目の前に妙な火花が舞った。いや、目の中で舞った。 視界が急速な勢いで萎み、これまでの三分の一程度まで縮小する。ダメージアラートが表示されているはずだが、それを完全に見る事が出来ない。 (ダメージ数の把握が・・・!) 見えなくなりつつある事よりも、彼女は戦闘に支障をきたす事を悔やんだ。残った視界にも大きなノイズが走っている。最早、視界のほとんどが奪われつつる状況。それでもルクスは敵をスコープに入れようとする。 (負けるわけには!) が、目が見えない重砲撃タイプなど単なる的に過ぎない。 数秒後に放たれたレーザーライフルを回避する事が出来ず、ルクスは直撃をくらった。全身から力が抜けていく。高いブザー音と共に、彼女のボディに敗北を意味するドクロが舞った。 あちこちにガツ、ゴツとぶつかりながらも、何とかルクスはゲートに辿り着いて筐体から出る。火花はまだ目の中で散っていた。 「ルクス!?」 慌てたような声が聞こえる。そこにいるのだろう。 彼女はいつも通り、視線を主に向けずに首を振った。 「申し訳ございません、マスター。私のミスで敗北しました。弁明の言葉もありません」 「そんなんはえぇねん! それより・・・大丈夫なんか!?」 何が、いいのか・・・。 オフィシャル・プロを目指しているような方が。 「異常といえば、視力が奪われました」 恥だ。主の構想を裏切り、自身のミスで負けただけではなく。挙句故障とは。何という役立たずな・・・。 そこまで思った時には。アキはルクスを引っ掴み、メディックルームに走っていた。 「・・・ありがとう、ございました」 搬送された神姫センターから、暗い表情でアキがルクスを胸に抱いて出てくる。 「・・・」 結果は・・・『ノー』だった。 そもそもが、彼女の人工眼球が、武装神姫の物ではなかったという衝撃の事実付きで。 パーツの混入・・・数百分の一か、数千か、数万か。何が起きたかは解らないが、しかし確かに起こりえた。彼女の眼は旧型神姫タイプ『ミネルヴァ』の不良品であったのだ。 武装神姫のカメラアイ部は、従来の神姫よりもガードグラスが遥かに丈夫に出来ており、それ故に人工眼球とCSCセンサーとの結合も強固になっている。ルクスが・・・生まれながらに持っていた障害をアキに伝えていれば、その時点での良品への変更は可能であっただろうと。 彼女は当初から視界が色を認識していなかった。 だが、ルクスは別段それを主であるアキに言おうともしなかったし、不便とも感じなかったのだ。全てはバトルに、戦闘に・・・必要ないからと。 その『悪い眼』でずっと暮らし、戦ってきたルクスのCSCが既に『その規格の眼球』を自身の目とする認識を、終了してしまっていた。 新品の武装神姫の眼の規格では、彼女のCSCがデータを認識しない。 とはいえ『悪い眼』と同じ程度の格である『旧式の眼』はほとんどがハンドメイドの代物だ。色も違えば、一つ一つが微妙にセッティングが違い、合う物が見つかる可能性は限りなく低いと・・・そう、伝えられた。 「・・・なんで、言わんかったん?」 合う物が見つかれば、連絡をくれると気の毒そうにドクターは言ってくれたが。期待は出来ない。 アキの言葉に、抱かれたルクスは俯いたまま何も言わなかった。 「なんで・・・色が見えないって、言わなかったん? ルクス」 もう一度。それでもどこまでも優しく、アキは言う。それが妙に苛立たしく感じられ、ルクスは僅かながら乱暴に答えた。 「必要ないと判断しました。バトルに影響はなく。むしろ、色の彩度に目を取られないだけ便利であろうと」 酷くなっていくノイズは。既に視界のほとんどを奪っている。 「そっか・・・ごめんな・・・気付かへんで」 ポツポツと聞こえる声。何故謝るのか。全ての非は私にある。 「マスターは悪くありません。状態管理・報告の義務さえ怠った、私の責任です」 「ウチは、マスターやのに・・・」 聞こえていないのか、アキは尚も呟くように言うだけだ。 ルクスは溜息をつき、淡々と言った。 「・・・マスター」 「?」 「私のCSC破棄を提案致します」 ぴたっと、足が止まった。 「え・・・?」 アキの顔さえ見ずに、ルクスは続ける。 「マスターはオフィシャル・プロを目指し、それに近い場所にいらっしゃいます。状態管理を損ない、無様にも・・・恐らくは視力を失うような神姫では貴女への期待と、高いステータスに答える働きは出来ません」 それが当然だ。 「CSCを一度破棄し、新しい眼球に取替え、そして再度起動を行ってください。名はルクスでも構わないでしょう。同一ボディとヘッドパーツならば特例としてランキング継承が認められた例があります」 私は彼女の神姫・・・所有物であり、期待に答える義務があった。 それが出来ない愚かな存在が、これ以上、類稀なる才能を持つ方の側にいる訳にはいかない。 「何・・・言って」 アキの震える声。ルクスは首を振って溜息混じりにはっきりと言った。 (・・・何を感傷的になっておられますか) 「私と貴女はパートナー。片方が『裏切り』に近い行為を行った時、貴女には切り捨てる権利があり、私にはソレを受け入れる義務がある。今日とて勝てば、日本選手権への切符を手に入れることが出来たベスト4入りを逃したのは、私の責任です」 「『裏切り』・・・?」 「何よりも、マスターはフォートブラッグの戦い方・セッティングに慣れておられるでしょうし・・・」 そこまで言って、決定的に重要な事を言う。 「CSCと眼球のみでしたら、『コスト』も、抑えられますから」 「『裏切り』・・・? 『コスト』!?」 少し、語気が強められた。 「?」 「この・・・っ! ド阿呆おっ!!」 水がパタパタッとバイザーに降ってきた。きょとんとして、ルクスは見えなくなりつつある目を上に向けた。 白黒の、小さな視界に。泣いているアキがいた。 (・・・ぁ) そういえば・・・。 「ウチはルクスじゃないと意味がない! ルクスの代わりなんておらん!」 「代わりは・・・」 私は、武装神姫。大量に生産されているタイプ。代わりなんて。 「ルクスが、好きやから! 一緒に来たのに! 裏切りなんてありえへん!! ルクスはルクスやのに、何でそんな事言うん!?」 大粒の涙が眼鏡を濡らし、首を振った時に零れ落ちる。 (・・・好き?) 泣きながら叫ぶアキを呆然と見つめながら、言葉を反芻する。 そういえば・・・マスターの顔を正面から見たのは、はじめてだったっけ・・・。 紫電が舞った。耳に届くブチッという音と共に。 視界から光が、完全に失われた。 ・・・一週間後。 昨夜、『データ規格に一致するかもしれない』眼があると電話があり、そこに連絡を入れるや平日にも関わらず、アキはルクスを連れて早朝からリニアエクスプレスに飛び乗った。 新京都駅からの通勤の人たちに混じって揺られる事一時間と少し。中央ステーションからバスに乗り換えて。 そして。彼女達はそこに降り立った。 「きょう、こく・・・?」 この一週間。泣き腫らした目でアキは、その珍しい名前をした研究所の看板を読む。ルクスは無言で俯き、そのポシェットの中で座っている。 千葉峡国神姫研究所。それなりに大型の研究所らしい。 意を決して。彼女は呼び鈴を鳴らした。 この一週間。 ルクスは一人暮らしをしているアキの部屋、机の上。言葉さえ発せず、クレイドルの上にずっと座っていた。座らされていたし、そこから動こうともしなかった。 毎朝、声をかけながらアキは優しくルクスの身体を払う。 「ごめんな・・・ごめんな?」 そう謝りながら・・・学校には行っているか解らない。 時折、机に突っ伏しているのか、くぐもった涙交じりの声が近くから聞こえるだけで。 ただ。 ルクスは、何か一つのキーワードを探し続けていた。 この、胸を蹂躙する気持ちを、はっきりとさせるワードが。あるはずなのに。 「・・・。結論から言えば。移植は可能です。それで光が戻るかは確信はありませんが・・・確率的には半々と言った所でしょうか」 様々な機械でデータを取り、その後所長室に通されたアキとルクス。 その前に座った、堅苦しそうな雰囲気を漂わせる小幡 紗枝と名乗った初老の女性は、手元のデータファイルに目を通しながら事務的な口調で言った。 「半、々・・・」 アキはぽつっと呟いて。 「あの、それで・・・」 「無論。一人でも多くの神姫と、そのマスターをお救いするのが私達の使命でもあります。お譲り致しましょう。・・・治療費は、別途頂くかもしれませんが」 「ホンマですか?」 嬉しそうに言うアキに、しかし小幡は冷静・・・冷徹とも見える表情のまま一つ頷くと、机上に直立するルクスに視線を向けた。 「さて、ルクスさん。貴女に聞いておきたい事があります」 ルクスは顔を声のする方向へ向ける。 「視力を失う前兆は当初からあったとの事ですが・・・何故、貴女は。色彩を認識していない旨をマスターに伝えなかったのですか?」 ふっと顔を下を向けたまま、答える事が出来ない。彼女は質問を理解はしていたが、それどころではなかったのだ。 ずっと探している。その単語を。今も心中を漁って。 「ウチの・・・。ウチのせいです!」 何も言わない彼女に慌てたように、アキが叫んだ。 ゆっくりと、声がした方に顔を向ける。 (マスター?) 「・・・ウチが・・・ルクスに無理をさせすぎて」 一週間聞き続けた、涙声に変わっていく声。 「構ってあげれなくて・・・そんで・・・彼女の事を何も考えてあげれなくて。色が見えてないって事さえも、気付いてあげられへんかったのは・・・」 絞り出すような声。 (何の為に・・・) 「全部・・・」 どうして? 「なるほど。・・・今の話が本当として。さて、貴女には、彼女を恨む権利があります」 別の方向から、小幡の冷静極まりない声が聞こえた。 「・・・。・・・!」 ルクスは『恨む』という単語に驚いて顔を振り向ける。 「ルクスさん? 神姫の不調さえ気付かず、戦いを強い、視力を奪い去った彼女を。それでも赦すのですね?」 それは。 赦す・・・? 「当然ですよね。貴女は、彼女の神姫なのだから」 「そ、それは! ちゃいます! ウチは!」 驚いたような、アキの声。 「お黙りなさい、山県さん」 それを封じる、厳しく、冷たい声。 「・・・これは、貴女の問題でもありますが、同時に彼女の問題でもあるのですよ?」 情に流されぬ研究者の声。 「どうですか? ・・・ルクスさん」 「・・・」 アキの、漏れるような声だけ、聞こえている沈黙の中。 (・・・あ) ルクスは、ようやく『一つの単語』に辿り着いた。 「・・・『光を失う』事」 質問の回答になっていない言葉を、彼女は紡いだ。 「これは、私への罰。・・・マスターの顔さえ直視せず。その声から耳を塞ぎ・・・『それ』から逃げ続けた」 直立したまま、淡々と。感情がほとんど込もっていない声で続ける。 「私は・・・『それ』を受け止めようとしなかった」 ふっと、自分の声調が変わった。 「大好きなネイルアートをやめてしまわれた。・・・髪が、傷つくからと」 それは誰の為に。 「パーツを持った事も無いドライバーで分解し、綺麗に洗ってくれたのも。ハンドカスタムしようとして。絆創膏だらけになってしまった指先も」 一体誰の為だったか。 「初勝利のときに誰よりも喜んでくれたのも。時間が無いのにアルバイトをして、兵装をフルチェックに出してくれたのも」 全ては。誰の為だった? 「・・・。そんな事を、何も考えずに受け止め。それが当然だと甘えながら」 それら全ては。誰に向けられていた? 「マスターの声に耳を傾けず、その瞳を真っ直ぐ見る事さえ出来ない・・・こんな」 声が揺れていた。とめどない感情の奔流が口から流れ出す。 ルクスは膝から崩れ落ち、その場にへたり込んだ。 何も見えぬ闇の世界。冷たい机の堅さだけが、足から伝わってくる。 「本当に救いようの無い、愚かな神姫の為に」 マスターは。私に。 どれほどの『それ』を注いでくれていたのか。そんな事さえ考えもしない神姫の為に。 「私は・・・」 光を照り返さない瞳を天に向ける。それも空しき抗いに過ぎず、涙が目から零れ落ちた。 「私は、きっと。愛されていた」 『愛』。 そんな簡単な単語を導くために。一体、どれほどの時間が必要だったのか。 雫が落ちる音が聞こえる。それは、誰の涙なのか。ようやく彼女は、全てを認識した。 「この光を失う事は。その愛を踏み躙り、目を伏せ続けた。愚かな私への罰」 「・・・。受け入れると?」 冷たくこちらを刺す様な小幡の声。ルクスは小さく頷き。唇をわななかせた。 当然の罰。受けるべき刑・・・。 「・・・それでも」 メモリーを埋め尽くす、最後に見た映像。 彼女は・・・マスターは。 「それでも・・・私はっ!」 何も掴めぬ指で見えぬ目を閉じ顔を覆う。消えない。その映像は消えはしない。 はじめて・・・そう、はじめて真っ直ぐに見詰め合った、陽の如き愛を注いでくれたマスターは。 泣いていたのだ。 こんな、愚か者の為に。 「マスターの姿を・・・失いたくないっ!!」 泣いていたのだ! こんな、『愛』を『涙』にしか換える事が出来ない、ガラクタの為に! このまま光を失えば。自分は、ずっとずっと知らないまま。 泣いていない、哀しみに囚われていないマスターの顔を。 愛を与え続けてくれた、いつも自分へ向けてくれていたはずの、唯一無二のマスターの顔を! 「う・・・う、ひぐっ・・・。マスタ・・・マスタぁ!」 心が無茶苦茶に掻き乱されていく。氾濫する感情。 メモリーを埋め尽くすのはアキの泣き顔。姿を見る事さえ適わぬ主を、彼女は叫ぶように呼ぶ。 あの泣き顔が・・・与えてくれた愛に出した答え。あの涙が、愛の代価として私がマスターに与えた物だ! 身を引き裂くほどの後悔と懺悔。ルクスは両手を地に付いた。 「ごめん、なさい。ごめんなさい・・・っ!」 吐き出された『想い』。赦されるとは思っていない。赦されるはずなんてない。 自身がやってきた事。自身が口にした言葉。 その須らくが、愛への『裏切り』に他ならなかった。 何本の棘をマスターの心に叩き込んだ? 果たして、どれだけの愛を捨ててきたのか? どれほどの愛を踏み躙ったのか! 考えただけで心が押し潰されそうな罪。 身動きさえ取れないルクスを、誰かがそっと抱き上げた。 「・・・。マスター・・・?」 知っているコロンの香りに、彼女は、ぽつりと呼んだ。 「・・・」 しゃくり上げる声。何も言わず。アキはルクスをぎゅっと胸に抱いた。 暖かい。知っている匂いと温もり。 ・・・初めて起動した時に、抱き上げてくれた時と同じ。 あの頃から・・・この、こんな神姫に・・・この人は、『愛』を注いでくれていたのに。 彼女は咽び泣いた。ごめんなさいと、ただ繰り返しながら。 「小幡、さん」 泣き続ける彼女を抱きながら、自身も涙でボロボロの顔を、アキは小幡に向けた。 「・・・。解りました」 小幡は静かに頷き、微笑を浮かべた。 「彼女に・・・良い『名』を、お付けになりましたね。山県さん」 「・・・! はい」 ルクスを抱き締めたアキを、小幡は奥の部屋に誘った。 再起動音が自分の耳の奥で鳴っている。とすれば。これは、夢、だろうか。 ゆっくりと眼を開ける一瞬前。ルクスは不思議な光景を見た。 どこまでも続く、晴れた風吹く草原。そこに立つ彼女の前に、一人の美しい神姫が髪を風に揺らせ立っている。 翠の髪。そして、銀色の瞳。パールと草色のスーツカラー。 その神姫はルクスに優しく微笑みかけていた。 『・・・母様?』 ふと自然と出た、その言葉。 風が吹き、草原が消えていった。 高い電子音が一度鳴る。 その瞳の色は銀色に変わっていた。焦点が合い、部屋を視界に映し出す。 「ルクスっ!?」 覗きこむ、心配そうな顔。 ルクスは小さく頷いた。 ぱっと、アキが笑顔に変わる。 (あぁ・・・) 赤い縁の洒落た眼鏡。 染めた髪にメッシュが入って何と鮮やかな。 銀のピアスで賑やかな耳元。 どことなく日本人とは違う印象を与える、顔立ち。 「マスター」 私は、こんなに近くにあった愛を。長く、見ようともしなかったのか。 「見えるな? 見えるんやな!?」 「はい・・・」 これほどまでに。美しい愛の姿を。 「・・・はい、マスター。異常ありません」 そう言い終わったときには。強く、胸に抱きしめられていた。 空はどこまでも蒼く、遠く千切れたような白い雲。 グレーのアスファルト。走る色とりどりの電気自動車。街路樹は緑の葉を萌やし、金の木漏れ日を落としている。 歩く、黒い影。肩に小さな影。 目に映る、初めての世界の色。 「ゼリスさんかぁ・・・凄いヒトもいるねんなぁ」 「はい」 あの後ディスクを見て、この『瞳』が誰の物かを知った。 きっと。夢の中で思わず口走った言葉は・・・決して間違いではなかった。 「・・・重いね」 「はい」 「頑張らな、アカンね」 「はい。マスター」 こちらに向けられた視線を真っ直ぐに見返し、ルクスは頷いて見せた。アキも嬉しげに頷き返す。 ただそれだけ。こんなに簡単な事が。今まで出来なかったのか・・・。 胸の奥でCSCが揺れて、心が熱くなる。 「・・・ん? メール?」 開いたケータイに目をやったアキの表情が一変する。 「しもたっ・・・今日絶対受講の講義が七限にあるんやったっけ。間に合うかな!?」 「・・・。時間的に一時間後までにラピッド=エクスプレスに乗れば間に合います。急ぎましょう」 脳内で時間割を的確に展開、計算してルクスはアドバイスを送る。 「・・・マスター」 「ん?」 「私の名に・・・何か、意味があるのですか?」 恐縮するようにルクスは聞く。 小幡が言っていた言葉が気になっていた。『良い名』とは。如何なる意味なのか。 「あ・・・『ルクス』ってのはな」 ストラップだらけのケータイをポケットに捻じ込むと、アキは嬉しげに笑って見せた。 「ウチと、同じ」 「?」 「『光』っていう意味やねん」 風が、吹き抜けた。 「よし、バス停まで走るで!」 「・・・。はい、マスター」 しっかりと服に掴まる。放さないように。そして離れないように。 銀の瞳をビルの間に見える天に向け、涙を浮かべている事に、気付かれないように祈りながら。 ・・・。 この愛は私には大きすぎる。 この光は私には眩しすぎる。 それでも。 こんな愚かな、ド阿呆と・・・怒られるような神姫でも。 貴女の『愛』を、『笑顔』に換えられる様に。 ・・・愛していこう、ずっと。 光溢れる天よりの旋風。鳥、舞い降りるその一迅。 海には波を誘い。空には雲を呼び。その髪を遊んで吹き抜ける。 第五幕。下幕。 第五間幕
https://w.atwiki.jp/touhoukashi/pages/5929.html
【登録タグ ぼ 冬乃桜 天秤亭 星条旗のピエロ 曲 純化の定理、百合の花 -TABLETALK ROLE PLAY IN TOHO 9- 遥か38万キロのボヤージュ】 【注意】 現在、このページはJavaScriptの利用が一時制限されています。この表示状態ではトラック情報が正しく表示されません。 この問題は、以下のいずれかが原因となっています。 ページがAMP表示となっている ウィキ内検索からページを表示している これを解決するには、こちらをクリックし、ページを通常表示にしてください。 /** General styling **/ @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight 350; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/10/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/9/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/8/NotoSansCJKjp-DemiLight.ttf) format( truetype ); } @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight bold; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/13/NotoSansCJKjp-Medium.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/12/NotoSansCJKjp-Medium.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/11/NotoSansCJKjp-Medium.ttf) format( truetype ); } rt { font-family Arial, Verdana, Helvetica, sans-serif; } /** Main table styling **/ #trackinfo, #lyrics { font-family Noto Sans JP , sans-serif; font-weight 350; } .track_number { font-family Rockwell; font-weight bold; } .track_number after { content . ; } #track_args, .amp_text { display none; } #trackinfo { position relative; float right; margin 0 0 1em 1em; padding 0.3em; width 320px; border-collapse separate; border-radius 5px; border-spacing 0; background-color #F9F9F9; font-size 90%; line-height 1.4em; } #trackinfo th { white-space nowrap; } #trackinfo th, #trackinfo td { border none !important; } #trackinfo thead th { background-color #D8D8D8; box-shadow 0 -3px #F9F9F9 inset; padding 4px 2.5em 7px; white-space normal; font-size 120%; text-align center; } .trackrow { background-color #F0F0F0; box-shadow 0 2px #F9F9F9 inset, 0 -2px #F9F9F9 inset; } #trackinfo td ul { margin 0; padding 0; list-style none; } #trackinfo li { line-height 16px; } #trackinfo li nth-of-type(n+2) { margin-top 6px; } #trackinfo dl { margin 0; } #trackinfo dt { font-size small; font-weight bold; } #trackinfo dd { margin-left 1.2em; } #trackinfo dd + dt { margin-top .5em; } #trackinfo_help { position absolute; top 3px; right 8px; font-size 80%; } /** Media styling **/ #trackinfo .media th { background-color #D8D8D8; padding 4px 0; font-size 95%; text-align center; } .media td { padding 0 2px; } .media iframe nth-of-type(n+2) { margin-top 0.3em; } .youtube + .nicovideo, .youtube + .soundcloud, .nicovideo + .soundcloud { margin-top 0.75em; } .media_section { display flex; align-items center; text-align center; } .media_section before, .media_section after { display block; flex-grow 1; content ; height 1px; } .media_section before { margin-right 0.5em; background linear-gradient(-90deg, #888, transparent); } .media_section after { margin-left 0.5em; background linear-gradient(90deg, #888, transparent); } .media_notice { color firebrick; font-size 77.5%; } /** Around track styling **/ .next-track { float right; } /** Infomation styling **/ #trackinfo .info_header th { padding .3em .5em; background-color #D8D8D8; font-size 95%; } #trackinfo .infomation_show_btn_wrapper { float right; font-size 12px; user-select none; } #trackinfo .infomation_show_btn { cursor pointer; } #trackinfo .info_content td { padding 0 0 0 5px; height 0; transition .3s; } #trackinfo .info_content ul { padding 0; margin 0; max-height 0; list-style initial; transition .3s; } #trackinfo .info_content li { opacity 0; visibility hidden; margin 0 0 0 1.5em; transition .3s, opacity .2s; } #trackinfo .info_content.infomation_show td { padding 5px; height 100%; } #trackinfo .info_content.infomation_show ul { padding 5px 0; max-height 50em; } #trackinfo .info_content.infomation_show li { opacity 1; visibility visible; } #trackinfo .info_content.infomation_show li nth-of-type(n+2) { margin-top 10px; } /** Lyrics styling **/ #lyrics { font-size 1.06em; line-height 1.6em; } .not_in_card, .inaudible { display inline; position relative; } .not_in_card { border-bottom dashed 1px #D0D0D0; } .tooltip { display flex; visibility hidden; position absolute; top -42.5px; left 0; width 275px; min-height 20px; max-height 100px; padding 10px; border-radius 5px; background-color #555; align-items center; color #FFF; font-size 85%; line-height 20px; text-align center; white-space nowrap; opacity 0; transition 0.7s; -webkit-user-select none; -moz-user-select none; -ms-user-select none; user-select none; } .inaudible .tooltip { top -68.5px; } span hover + .tooltip { visibility visible; top -47.5px; opacity 0.8; transition 0.3s; } .inaudible span hover + .tooltip { top -73.5px; } .not_in_card span.hide { top -42.5px; opacity 0; transition 0.7s; } .inaudible .img { display inline-block; width 3.45em; height 1.25em; margin-right 4px; margin-bottom -3.5px; margin-left 4px; background-image url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2971/7/Inaudible.png); background-size contain; background-repeat no-repeat; } .not_in_card after, .inaudible .img after { content ; visibility hidden; position absolute; top -8.5px; left 42.5%; border-width 5px; border-style solid; border-color #555 transparent transparent transparent; opacity 0; transition 0.7s; } .not_in_card hover after, .inaudible .img hover after { content ; visibility visible; top -13.5px; left 42.5%; opacity 0.8; transition 0.3s; } .not_in_card after { top -2.5px; left 50%; } .not_in_card hover after { top -7.5px; left 50%; } .not_in_card.hide after { visibility hidden; top -2.5px; opacity 0; transition 0.7s; } /** For mobile device styling **/ .uk-overflow-container { display inline; } #trackinfo.mobile { display table; float none; width 100%; margin auto; margin-bottom 1em; } #trackinfo.mobile th { text-transform none; } #trackinfo.mobile tbody tr not(.media) th { text-align left; background-color unset; } #trackinfo.mobile td { white-space normal; } document.addEventListener( DOMContentLoaded , function() { use strict ; const headers = { title アルバム別曲名 , album アルバム , circle サークル , vocal Vocal , lyric Lyric , chorus Chorus , narrator Narration , rap Rap , voice Voice , whistle Whistle (口笛) , translate Translation (翻訳) , arrange Arrange , artist Artist , bass Bass , cajon Cajon (カホン) , drum Drum , guitar Guitar , keyboard Keyboard , mc MC , mix Mix , piano Piano , sax Sax , strings Strings , synthesizer Synthesizer , trumpet Trumpet , violin Violin , original 原曲 , image_song イメージ曲 }; const rPagename = /(?=^|.*
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2425.html
第2部 「ミッドナイトブルー」 第1話 「night-1」 ミッドナイトブルー (Midnight Blue) は色のひとつ。直訳すると「真夜中の青」となる。 西暦2041年 5月20日 23:55 花博記念公園鶴見緑地(はなはくきねんこうえんつるみりょくち)は大阪府大阪市鶴見区と大阪府守口市の市境にある。そこには公園施設の一部を利用した武装神姫センターがあった。 真夜中ということもあり、利用している神姫やオーナーの数もまばらだ。 『大阪府 大阪市 鶴見緑地センター店』 真っ暗な闇の中を、数隻の巨大な灰色の塊が轟音を奏でながら進む。 ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン・・・ チーム名 「灰色艦隊」 □巡洋戦艦型MMS 「アリスン」 Sランク □巡洋戦艦型MMS 「クローディ」 Aランク □巡洋戦艦型MMS 「ノザッパ」 Aランク □巡洋戦艦型MMS 「ナヴァリン」 Sランク □巡洋戦艦型MMS 「キャリスタ」 Aランク □巡洋戦艦型MMS 「オーレリア」 Aランク □巡洋戦艦型MMS 「エルヴィラ」 Aランク □巡洋戦艦型MMS 「ジェシカ」 Aランク □重巡洋戦艦型MMS 「マキシマ」 SSランク「ワルキューレ」 □重巡洋戦艦型MMS 「ヴィクトリア」 SSランク「砲女神」 オーナー名「野木 恵」♀ 24歳 職業 ネオニート マキシマ「嫌な夜だ・・・新月で真っ暗闇だ・・・星明りさえない・・・」 ヴィクトリア「こんな夜には、化け物が出るらしいな・・・マキシマ」 マキシマ「化け物か」 野木「化け物ですって?残念ながら私はそういうものは信じない主義でね。信じるのは金と力さ」 『灰色艦隊』 快速を誇る巡洋戦艦型神姫、10隻で構成された野木の誇るMMS艦隊である。ただでさえ高価な戦艦型神姫を10隻も所有している野木は変わったオーナーだ。 野木は親の遺産を元手に株のトレードで生計を立てている引きこもりのニートであり、神姫関連の企業について野木は詳しく、そういった点で投機をして荒稼ぎをしている。 そしてその儲かったお金で同型の戦艦型神姫を大量に保有して、自分の用心棒としているのだ。ただ、用心棒に艦隊を保有しているのは少々やりすぎな点もしないが・・・ ヴィクトリア「・・・マスター、こんな話を知っていますか?こんな真夜中の深い青の夜には、化け物が出て一瞬にして命を奪い取るという話を・・・」 野木「くどい!ヴィクトリア!!そんな非常識なものがいてたまるか!それにそんな化け物が出たら、お前たちの出番だろ!」 オーレリア「はっははは!たしかにその通りです。マイマスター・・・我々、灰色艦隊はそのようなよく正体も分からないような化け物にやられたりしませぬ」 ジェシカ「そうですね」 キャリスタ「んだんだ」 ノザッパ「ヴィクトリアさんの話は有名な都市伝説のアレですね」 野木「都市伝説?なんだノザッパ」 ノザッパは得意げなドヤ顔で話す。 ノザッパ「真夜中の日付の変わる午前0時ぴったりにいきなり現れるんだ真っ黒な神姫のことさマスター」 クローディ「その都市伝説は有名だよー」 ノザッパは続ける。 ノザッパ「夜のステージにしか現れない真っ黒な武装神姫で、その姿を見た神姫は一瞬にして命を奪いとられるんだってさー」 オーレリア「・・・・・」 ジェシカ「おい」 ノザッパ「な、なんだよ」 マキシマ「今、23:59だぞ」 ノザッパ「・・・・・」 野木が腕時計を見る。カチ・・・カチ・・・と時を刻む音が静かに聞こえる。 野木「5・4・3・2・1・・・」 カチリ 午前0時を指す時計。 野木「午前0時だ」 ヴィクトリア「・・・周囲に敵影なし」 ジェシカ「おいおい、わざわざ警戒する必要もないでしょ」 野木「異常無しか・・・」 ノザッパ「だから都市伝説ですってー」 そのとき、チカチカと上空から何かが光った。 マキシマ「・・・?なんだ今の光は・・・」 ガンッバキン!! アリスンの艦橋ブロックが青白い光に貫かれると同時に機関部分が真っ赤な炎を上げて吹き飛んだ。 □巡洋戦艦型MMS 「アリスン」 Sランク 撃破 ズズウズウウウウウンン・・・・ 野木「な・・・」 そして次の瞬間、大型の対艦ミサイルが先方を進んでいた4隻の巡洋戦艦型神姫に命中し次々と火達磨になって爆発した。 マキシマ「!?け、警報!!ミサイル多数接近っ!!!」 野木「な・・・なんだと!!」 キュン!! ドガン!!バギャン!!ズズズウン!!バゴオオオムウ!! □巡洋戦艦型MMS 「ナヴァリン」 Sランク 撃破 □巡洋戦艦型MMS 「キャリスタ」 Aランク 撃破 □巡洋戦艦型MMS 「オーレリア」 Aランク 撃破 □巡洋戦艦型MMS 「エルヴィラ」 Aランク 撃破 ノザッパ「う、うわああああ!!!ナヴァリンが・・・」 一瞬にして艦隊の半数が轟沈され、真っ暗な闇の中で花が咲いたように紅蓮の火球が燃え上がる。 クローディ「キャリスタ!轟沈!!くそオーレリアもエルヴィラもやられた!!」 ジェシカ「せ、先方のアリスン轟沈!!うわあああ!!」 野木「落ち着けェ!!状況を確認しろ!!マキシマ!!」 マキシマ「レーダー、センサー共には、反応なし・・・ど、どうなってるんだ!!」 ノザッパ「ば、バカな・・・せ、戦艦型神姫が一瞬にして撃沈されるなんて」 クローディ「敵は、ど、どこだ!!見えないぞ!」 ヴィクトリア「・・・・・右舷に反応有り、チラッとだが、レーダーに小さい影が映った」 野木「照明弾っ!!撃てェ!!」 ヴィクトリアは照明弾を打ち上げる。 キューーーーーーーーーン・・・・パアァーーーン!! 真っ暗な闇の中にギラリと光る赤い眼のようなモノが光った。 マキシマ「敵機捕捉!!こいつはステルスMMSだ!!レーダーに映りにくい!!」 ジェシカ「畜生ォーーーブチ落としてやる」 野木はマイクを掴んで叫ぶ。 野木「全艦、対空防御!!全砲門開け!!撃てェ!!」 ウーーーーウウーーーーーウーーーーウーーー 生き残った戦艦型神姫たちは、砲塔をゴリゴリと動かして正体不明の黒い神姫に狙いを定める。 正体不明の黒い神姫はぐんと速度を上げて雲海の中に隠れる。 マキシマ「雲の中に隠れたようです」 野木「ええい!!かまわん!!撃て撃てェ!!」 クローディ「主砲正射!!」 巡洋戦艦型神姫の艦隊が一斉に3連ヘヴィ・ターボレーザー砲を正射する。 ズンズズズン!!ビシューーン!!ビシュエエーーン!! 真っ暗な夜を青白い光の線が何百本と貫く。 ヴィクトリア「レーダーロスト、敵機を見失いました」 ジェシカ「どこに嫌がる!?」 ジェシカがサーチライトを使って雲の海を照らす。 野木「サーチライトなんか出すな!やられたいのか!」 ビシュエエーーーン!! 雲の海の中から強力なレーザービームがまっすぐ伸び、ジェシカに命中する。 ジェシカ「うわあああっああああああああ!!」 ズズウズウウウウウ・・・・・ンン ジェシカの巨大な船体が真っ赤な炎に包まれ高度を落とす。 ヴィクトリア「ジェシカ被弾!!ジェシカ被弾!!高度を上げろ!!墜落するぞ!!」 ジェシカ「ば、バカな・・・せ、戦艦型神姫を一撃で落とすなんてェ・・・あ、」 ジェシカの船内の弾薬庫に引火し、大爆発が起きる。 ズンズンズンズンンンン!! □巡洋戦艦型MMS 「ジェシカ」 Aランク ヴィクトリア「ジェシカ轟沈しました」 マキシマ「敵は我々と同じ威力の以上の大口径砲を搭載した重神姫のようです」 ノザッパ「うわあああ!!ジェシカ!!!」 野木「ぐっ・・・なんてことだ・・・あ、あっという間に艦隊の3分の1が轟沈とは・・・」 クローディ「レーダーに捕捉!!またちらりと影が映ったぞ!!」 野木「・・・・マキシマ!!艦首収束素粒子砲、砲撃用意!!」 マキシマ「は・・・目標は!?」 野木「下の雲海を主砲で吹き飛ばせ!!炙り出してやる」 マキシマ「了解!」 キュウウイイイイイイイイイン・・・・ マキシマの主砲が光りだす。 ノザッパ「マスター!?なにを考えているんです!!そんなことをすればマキシマが狙われ・・・」 野木「構わん!!」 ノザッパ「まさか、マキシマを囮に・・・」 野木「・・・・言うな!!」 マキシマはこくりとうなずく。 マキシマ「囮とは上等じゃんばいですか!来るならくればいい!!返り討ちにしてくれましょうぞ!」 ヴィクトリア「敵機!捕捉!!正面距離1000!!」 ドフッ!!! 前方の雲海がばっと割れて真っ黒な正体不明の神姫が飛び出す。 野木「マキシマ!!撃て!!」 マキシマ「充填率、30パーセント」 野木「十分だ!艦首収束素粒子砲!!撃て!!」 マキシマ「艦首収束素粒子砲っ!!テっ!!」 バゴオオオオオーーーーウウウンン・・・ マキシマの前方の雲海がばっと吹き飛び、まっすぐ真っ黒な正体不明の神姫に届く。 真っ黒な神姫はくんと体を大きくひねり、加速しながら攻撃を回避すると同時に、青白い強力なレーザーを放った。 ビッシュウーーーーーエンン!!! クローディ「う、うわああああああああああ!!」 ゴバアアンン!!クローディの艦橋部分を抉るように吹き飛ばし黒い神姫は一瞬にして通り過ぎた。 □巡洋戦艦型MMS 「クローディ」 Aランク 撃破 マキシマ「な・・・なんてヤロウだ!!すれ違いざまに一隻落としやがった!!」 ノザッパ「ひえええ!!!」 ヴィクトリア「敵機!捕捉!!主砲斉射!!」 ズンズンズズズッン!! 黒い神姫は再び雲海の中にもぐり姿を消した。 ヴィクトリア「・・・・敵機、急速離脱・・・離れていきます」 野木「・・・・・そうか」 ノザッパ「はあはあはあ・・・な、なんだったんだ!?今のは・・・」 マキシマ「現在、時刻00:05・・・正体不明機に襲撃を受けてわずか5分で艦隊の3分の1を失いました」 野木「これは夢なのか・・・ノザッパの言っていた都市伝説はこれなのか!?」 ノザッパ「あ・・・ああああ・・・化け物だ!!化け物神姫だァ!!!」 ヴィクトリア「マスター・・・この画像を見てください」 ヴィクトリアはさきほど偶然、カメラで撮影した画像を野木に転送する。 野木「こ、こいつは!?」 ヴィクトリア「さきほどのアンノウンの画像です。こいつは夜間戦闘に特化した重夜戦・・・重夜間戦闘機型神姫です」 野木は画像を凝視する。 野木「重夜間戦闘機型神姫・・・」 画像には真っ黒な重武装の凶暴なフォルムの神姫の写真がぼんやりと写っていた。 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>・第2話 「night-2」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/4.html
ここは「マイティのひと」が作成した武装神姫ショートストーリー 『Mighty Magic』シリーズを掲載しております。 著/マイティのひと ※コラボレーション大歓迎也。 ※文字サイズを通常よりも一段階小さくしてご覧になると読みやすくなります。 ※本文は随時加筆修正されます。更新履歴をご参照ください。 ※現在諸事情により更新速度が激減しております。何卒ご了承ください。 - 昨日 - 今日 - 合計 神姫とそのオーナーたち 装備構成解説 設定解説 本文ページ(妄想設定準拠) マイティ編 Mighty Magic ・インターバトルO「アーキタイプ・エンジン」 ・強敵 ※『不良品』?とのコラボ作品 ・犬達の出会い ・バトリングクラブ ・インターバトル1「プレゼント」 ・変身! ※魔女っ子神姫☆ドキドキハウリンとのコラボ作品 ・主義 ※岡島士郎と愉快な神姫達より、鶴畑大紀ゲスト出演。 ・インターバトル2「誤情報」 ※パカパカ祭りより ・インターバトル3「エルゴより」 ※HOBBY LIFE,HOBBY SHOPとのコラボ作品 ・固執 ・戯れ(18禁作品) ・インターバトル4「親友」 ・インターバトル5「トレーニング・デイ」 ・信念 ・インターバトル6「変身! そのに」 神姫たちの舞う空 ・事前予告 某月某日2001時 ・開催前夜 二ヵ月後、某月某日2221時 ・参加手続および第一次作戦会議 *月*日1144時 ・エルゴ飛行隊(ERGO Spuadron)メンバー表 ・出撃~接敵 1223時~1236時 ・交戦~十五分経過 1236時~1245時 ・~三十分経過 1245時~1302時 ・戦況再変~戦術再考 1303時~1311時 ・コンタクトイエロー~第一ラウンド終了 1312時~1330時 クエンティン編 CROSS LO[A=R]D ※全編にわたって、岡島士郎と愉快な神姫達より鶴畑コンツェルンの面々が特別出演しております。 ・第一話「修正」 ・第二話「融合」 ・第三話「エイダ」 ・第四話「それぞれの正義」 ・第五話「相対」 ・第六話「恐怖の正体」 ・第七話「OFイクイップメント」 ・第八話「襲撃」 ・第九話「拉致」 ・第十話「知性」 ・第十一話「決意」 ・第十二話「回帰」 ・第十三話「脱出」 ・第十四話「アーマーン」 ・第十五話「上空戦」 ・第十六話「共鳴」 ・第十七話「憧憬」 ・第十八話「教育期間」 ・第十九話「逃亡」 ★The Latest Chapter★ シエン編 クレマチスの檻(タイトル決定) ※CROSS LO(A=R)Dが終了し次第連載開始。 Archives エロ妄想スレッドにて初期に書いた拙作二編。 For Adult only! ・ヴァッフェ装備のこと ・知識 参考文献 私が拙作を書く際おおいに助けていただいた書籍を紹介しています。 ※五十音順、敬称略 相田裕 『ガンスリンガー・ガール』電撃コミックス 押井守 『アヴァロン~灰色の貴婦人~』メディアファクトリー カズオ・イシグロ 『わたしを離さないで』早川書房 神林長平 『戦闘妖精・雪風《改》』 『グッドラック 戦闘妖精・雪風』 “火星三部作” 『あなたの魂に安らぎあれ』 『帝王の殻』 『膚の下』 いずれもハヤカワ文庫JA ※その他の作品も、機械知性を考えるのに役立ちます。 京極夏彦 “京極堂シリーズ” 『姑獲鳥の夏』講談社文庫 『魍魎の匣』講談社文庫 グレッグ・イーガン 『ひとりっ子』 士郎正宗 『攻殻機動隊 The ghost in the shell』 『攻殻機動隊1.5 Human-error processor』 『攻殻機動隊2 Manmachine interface』 いずれも講談社 藤田博史 『人形愛の精神分析』青土社 船木亨 『デジタルメディア時代の《方法序説》 機械と人間とのかかわりについて』ナカニシヤ出版 宮沢賢治 『新編宮沢賢治詩集』新潮文庫 ご感想などどうぞ。 サイドボードがタネとは、目からウロコでした。カードゲーム的発想ですね~ -- ねここのひと (2006-10-26 07 43 55) けっこう面白い話があるので、いつも楽しみにしています。 -- 名無しさん (2007-01-03 12 57 09) 面白い話とシリアスな話がそれぞれ展開していくのがいいですね。 -- 名無しさん (2007-01-04 16 06 00) 神姫たちの舞う空編、続きがむちゃくちゃ楽しみです! -- 神姫の父 (2007-01-13 21 10 23) 燃えますな大規模空戦!続きを楽しみにしております。 -- Gの人 (2007-01-16 00 24 46) いよいよ戦闘開始ですね! 次回も楽しみにしております! -- ドキ(ryの人 (2007-01-16 01 02 43) CROSS LO[A=R]Dがマジ熱い!! -- 名無しさん (2007-01-30 07 15 42) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2249.html
ウサギのナミダ・番外編 黒兎と塔の騎士 前編 ◆ 「遠野さんとティアって、強いのか?」 安藤智哉の言葉に、四人の少女はそれぞれドーナツをくわえたまま、静止した。 四人とも目が点になっている。 俺何か悪いこと言ったか? と首を傾げた。 悪気はなかった。 だが、四人の中で一番早く、蓼科涼子が解凍し、くわえていたドーナツを落として、般若の顔で安藤の胸ぐらを掴んだ。 「何言ってくれちゃってんの、このルーキー風情が!」 「いや、落ち着け蓼科……」 「セカンドリーグの全国チャンピオン『アーンヴァル・クイーン』と互角に渡り合えるのよ!? ティアは強いに決まってんでしょーが!!」 「それがさ……その……オルフェが勝っちゃったんだけど……ティアに」 「…………はあ?」 T駅前、おなじみのミスタードーナッツの店先である。 さすがに恥ずかしい状況なので、動き出した美緒たちが涼子を止めた。 彼女は、師匠に心酔しているので、遠野たちを卑下する話題には、過剰に反応してしまう。 渋々席に着く涼子。視線は安藤を睨んだままだ。 安藤の隣にいた美緒が、涼子をなだめるように口を開く。 「オルフェが勝ったって……遠野さんたちと対戦したの?」 「ああ……こないだの土曜日、ちょっと早い時間で、みんないなくてさ……遠野さんから、アルトレーネと対戦したことないから、やってみないかって」 「それで、ティアが負けた、って?」 ちょっと信じられない、有紀は目を見開いた。 安藤は頷く。 涼子がイスに背を預け、投げやりに言った。 「練習してたんでしょ。遠野さんは勝敗に頓着しない人だから」 涼子は以前、遠野に言われたことがある。 『勝敗よりも、問題点を見つけることが大切だ』と。 あのときの言葉は、涼子と涼姫にとっての座右の銘だ。 安藤は、その涼子の言葉にも頷いた。 「それも分かってるよ。クイーンと伝説的なバトルをしたことも知ってる。 だからこそ、遠野さんとティアが真剣に戦ったら、どれだけ強いのか、どんな戦いになるのか、興味があるんじゃないか」 ふーむ、と美緒たち四人は腕組みして考え込んだ。 確かに、ティアの強さを伝えるのは難しい気がする。 実際に見るのが一番なのだが、遠野は全力の真剣勝負をあまりしない。 しかし、安藤はしばらく後に、それを目の当たりにすることになる。 □ ……墓穴を掘った。 俺はゲーセンの定位置である壁際に背をつき、額を押さえて落ち込んでいた。 オルフェとクインビーの対決からしばらく後の週末である。 あの日、俺は武装神姫のチームを作ることにした。 ここ『ノーザンクロス』では、バトルロンドのチームを作るのがはやりだ。 チームを組むことのメリットは、仲間意識が強くなるだけではない。チームメンバーなら、練習のお願いもしやすいし、戦い方の研究や情報の交換にも役に立つ。 また、対戦もチーム形式で行える。バトルの幅が増え、楽しみも増す。 チームバトルの魅力にとりつかれた常連さんたちが、こぞってチームを組んだ。 俺もいくつかのチームに誘われたが、いずれも断った。 久住さんと大城が「チームを組もう」と言い出したときにも保留にしていた。 俺にとってメリットがないと思っていたからだ。 現状維持でも、俺が武装神姫に求めることは達成できると考えていた。 だが、先日の事件で少し考え方を変えた。 チームを組めば、おいそれとチームメンバーが理不尽な目に遭うことも抑止できるのではないか。 そう考えて、チームを結成することにしたのだが……。 「墓穴を掘った……」 今度は口に出して言う。 チームを結成してからこっち、俺は自分のバトルをろくにしていない。 忙しすぎるのだ。 チーム結成直後は、チームに入れてほしいという希望者が続出した。 それらはすべて断った。チームを大きくする気はないからだ。 それで一苦労した。 だが、今度は俺のチーム宛にチームバトルを申し込んでくる連中が続出した。 それもすべて断った。 そもそも自分を含めたチームメイトを保護する意味が強いチームだし、チーム戦ができるほど、まだチームとしての熟成が足りていなかったからだ。 それでもう一苦労した。 チームのみんなは、俺の考えをよく理解してくれているから、何も言わなかった。 こぢんまりとした俺のチームがなぜこうも注目されるのか、と疑問に思ったが、よく考えてみれば、あの『エトランゼ』と現ランバトチャンピオンと、三強を倒したルーキーがいるチームなのだから、目立って当然か。 そんな事務処理に追われながら、今度はチームメイトのよしみで、バトルの相談に乗ったりしている。 だが、今度はそれも遠慮がなくなってきている。 特に蓼科さんは俺の一番弟子を自称している(認めたくないが)ので、ひっきりなしに話しかけてくる。 それに負けじと、成長著しい安藤が、バトルのアドバイスを求めてくる。 そこに他のチームメイトも加わるのだから、正直いい加減にしろと言いたくなる。 だから、 「おーい、遠野、虎実の空中戦の機動なんだけどさー」 「大城、貴様もかっ」 と言って、大城を邪険にあしらうのも、無理からぬことと思ってほしい。 「まあまあ。それだけ遠野くんがみんなから信頼されてるってことじゃない」 隣にいる久住さんが、そう言って笑う。 ……本当にそうだろうか。 いいように使われているだけのような気がするのは気のせいか。 「ところで、ミスティの変形のタイミングなんだけど……」 「君もかっ」 なんだか誰も信じられなくなりそうな、日曜の昼下がりである。 気分は墓に片足を突っ込んでいる感じだったが、平穏な日々ではあった。 そこに、珍しい客が現れた。 □ ゲームセンター『ノーザンクロス』の入り口が開き、新たな客が入ってくる。 その客に気づいた武装神姫コーナーの常連さんたちが、にわかにざわめきはじめた。 それに気が付いて、俺はふと視線を上げる。 その人物は、いつものように人の良さそうな笑顔で、俺に向かって手を挙げた。 肩には、輝くばかりの存在感を放つ、銀髪の神姫。 「高村……」 「遠野くん、ご無沙汰してます」 俺と高村優斗は握手を交わす。 俺の胸ポケットから、ティアがひょっこりと顔を出した。 「こんにちは、雪華さん」 「ごきげんよう、ティア」 高村の肩にいた銀髪のアーンヴァルは、鮮やかな笑みでティアに応えた。 まわりにいる誰かからため息が聞こえた。 隣にいた久住さんたちも、高村と雪華に挨拶する。 彼がここを訪れたのは、おそらくティアと雪華の一戦以来だろう。 久住さんにとっても久しぶりの再会であるはずだ。 「それで、高村。今日はどうした、こんなところまで。 ……それに、そちらは?」 「今日は、彼と彼の神姫を紹介したくて、来ました。……鳴滝くん」 高村の呼びかけに、一歩後ろにいた男性が前に出る。 体の大きい短髪の青年だった。 堂々とした印象。 ラフな服装の上からでも、鍛え上げた筋肉が見て取れる。 「鳴滝修平です」 「……遠野貴樹です。よろしく」 「お噂はかねがね」 「……はあ」 俺と鳴滝は握手を交わした。物怖じしない性格のようだ。 鳴滝の肩には、神姫がいた。 見たところ、騎士型サイフォス・タイプのカスタム機のようだ。 不機嫌そうな顔で、こちらをやぶにらみである。 マスターである鳴滝の態度とまるでちぐはぐだ。 「というわけで、今日は鳴滝くんのランティスと、遠野くんのティアで対戦してもらいたいんです」 そう言う高村は、相変わらずにこにこと笑っている。 鳴滝は力強く頷き、そして俺は首を傾げた。 ◆ 「なあ、今遠野さんと話してる人……みんな注目してるけど、誰なの?」 安藤が話しかけた美緒と他三名も、やはり遠野たちの会話に釘付けになっている。 涼子はそれを聞いてため息を付いたが、美緒が丁寧に教えてくれた。 「高村優斗さんと、その神姫で雪華。二つ名は『アーンヴァル・クイーン』。現セカンドリーグ全国チャンピオンよ」 「クイーンの雪華って……あの、ティアとすごいバトルをしたっていう……!?」 「そう」 美緒はあっさりと頷いた。 あれがあの『アーンヴァル・クイーン』なのか。 安藤の目は、ひときわ存在感を放つ、銀髪の神姫に吸い寄せられる。 雪華と呼ばれる神姫は、人の目を引きつけずにはおかない何かを備えているように思えた。 □ 「彼の神姫、ランティスは強いですよ。近接戦闘に限れば、秋葉原でも最強クラスです」 「ふむ……」 高村はそう言うが、俺はなおさら首を傾げざるを得ない。 武装神姫の対戦のメッカ・秋葉原で、近接限定ながらも最強クラスなら、対戦相手に事欠かないはずだ。 なのに、なぜ東京から離れたゲームセンターまでやって来て、ティアとの対戦を望むのか? その疑問をぶつけてみると、高村はあっさりこう言った。 「ランティスに挑む相手は、もう秋葉原にはいないのです。彼女はあるステージにおいて無敵を誇ります」 「無敵……?」 秋葉原で、特定のステージ限定とはいえ無敵とは……。 それはある意味、全国大会優勝ほどの実力ではないのか。 「……どのステージか聞いてもいいか」 「それは塔のステージさ。塔においては無敵ゆえに、こうあだ名された。『塔の騎士』あるいは『ナイト・オブ・グラップル』と」 鳴滝が穏やかな表情のまま、さらりと答えた。 肩にいるランティスは、いまだに不機嫌そうな表情を崩さない。 彼女はずっと俺の方を……いや、どうやら俺の胸ポケットにいるティアを睨みつけている。 と、大城が珍しく小さな声で口を挟んだ。 「塔の騎士・ランティス……? 聞いたことあるぞ。秋葉原で無敵のサイフォス・タイプで、その特徴は……武器を持たずに、徒手空拳で戦うって……」 大城は神姫プレイヤーの情報に詳しい。 だが、秋葉原ローカルの神姫まで知っているとは、なかなかの精通ぶりじゃないか。 高村と鳴滝は頷いた。 大城の情報は正しいようだ。 しかし、俺には不可解な点がある。 いくら近接格闘戦が得意な騎士型とはいえ、セットにある多彩な武器を使わず、素手……つまり、格闘術を使った肉弾戦で戦うというのは、いささか無謀ではないか。 しかも、塔のステージでは無敵を誇るという。 にわかには信じがたい。 「塔で無敵って……たとえば、アーンヴァルなんかの飛行タイプを相手にしてもか?」 「もちろん」 「ゼルノグラードのように、銃火器の塊相手でも?」 「言うまでもなく」 「ストラーフのように、サブアームで手数を稼ぐ相手でもか」 「当然です」 高村は俺の言葉にいちいち頷いた。 「塔のステージは、いささか特殊です。塔で最高のパフォーマンスを発揮できる神姫を考えたときに、一番に思いついたのがティアだったんですよ」 「噂は聞いてます。地上戦用の高速機動型で、その戦闘スタイルは唯一無二。そして、『クイーン』を破った、と」 俺は、鳴滝の神姫以上に、不機嫌そうな顔をした。 雪華はティアに負けたと言っているが、実際の試合結果ではティアが敗北している。 クイーンに勝った、などという風評は、俺にとっては好ましいものではない。 そんなことを考えていると、鳴滝の肩から、声がした。 「娼婦風情が、我が女王を倒したなど……世迷い言にもほどがある」 俺は思わずランティスを睨んでいた。 ティアが俺の胸ポケットで、身体をびくり、と震わせたのだ。 ランティスは苛烈ともいえる視線で、ティアを睨んでいた。 そんな神姫を、マスターの鳴滝がたしなめる。 「おい、ランティス……その言い方はないだろう」 「いいえ、師匠。我が女王の強い勧めがあったから、このような辺鄙な場所に来ましたが……あそこの気弱な娼婦が、わたしの相手足りうるなど、到底思えません」 もはやそんな言葉に動揺する俺とティアではないが、初対面の神姫にそう言われて、いい気分はしない。 鳴滝の物腰とは対照的に、不機嫌の度をますます強めるランティス。 そこへ、雪華の静かな叱責が飛んだ。 「ランティス、たとえあなたであろうとも、ティアへの侮辱は、このわたしが許しませんよ」 「え……あの、女王……」 「ティアは我が友であり、我がライバルです。あなたがわたしに見せる忠誠と同じように、彼女にも敬意を払うべきです」 「しかし……あれは娼婦です。あのような下賤な……」 「お黙りなさい!」 雪華が珍しく厳しい口調で怒鳴る。 「そのようなことに囚われているから、あなたは井の中の蛙だというのです。今のあなたのバトルは卑しいというのです」 「そ、それは言い過ぎではありませんか、女王!」 雪華の言いように、ランティスは気色ばむ。 どうやらランティスは、『アーンヴァル・クイーン』に仕える騎士を気取っているらしい。 だとすれば、辺鄙なゲーセンに棲む、人に言えない過去を持つ神姫に対し、敬愛する女王が下へも置かない扱いというのは、納得が行かないのも道理か。 ランティスはなおも食い下がる。 「わたしにも自負があります。相手は高速機動型とは言え、地上戦用。塔であれば後れを取ることはありえません!」 「その増長が卑しいというのです」 「女王!」 「わたしの物言いに不満があるならば、ティアとバトルなさい。きっと今のあなたに足りないものを教えてくれるでしょう」 あくまで不遜な態度を崩さない雪華。 ランティスは雪華のつれない態度に呆然とし、そしてティアへの憎悪を露わにした。 苛烈な視線が俺の胸ポケットへと向けられる。 ティアははらはらした表情で、雪華とランティスを見比べていた。 雪華はやわらかな微笑みを浮かべ、ティアを見て言った。 「ティア。お手数ですみませんが、このランティスに稽古を付けてやってもらえませんか?」 「……え? あ、あの……えと……」 戸惑うティア。 そして、ランティスがついに切れた。 「……いいでしょう。そこな神姫を完膚なきまでに打ち砕いてご覧に入れます。 師匠! マッチメイクを!」 マスターである鳴滝は肩をすくめ、苦笑しながら言った。 「……ということなんだが……ランティスの無礼な物言いは謝る。すまん。 で、改めてバトルを申し込みたい。どうかな?」 ランティスとは違い、鳴滝は柔軟だった。 ランティスの物言いに、正直ムカつくところもあったが、鳴滝は謝ってくれたし、高村と雪華がわざわざここまでやって来て、バトルのセッティングをしようというのだ。 しかも相手は、近接戦闘では秋葉原最強の神姫。 神姫プレイヤーとして、受けなければなるまい。 「ティア、行けるか?」 「マスターが戦いたいというならば、いつでも」 胸ポケットのティアに尋ねれば、いつもの答えが返ってくる。 俺は頷いた。 「OKだ。バトルしよう」 「よかった」 笑って言った鳴滝の肩から、ランティスが続けて言う。 「ステージは『塔』を希望する」 「塔、か……」 「……何か不服でも?」 「いや……ちょっとトラウマがな……」 以前俺たちが経験した塔でのバトルは、あまり思い出したくない。 そばにいた仲間たちも、少しうんざりとした表情をしている。 だが、俺は気を取り直して言った。 「いいだろう。塔のステージで受けて立つ」 俺がそう言った瞬間、周囲から歓声が上がった。 いつの間にか、俺たちのまわりに多くのギャラリーが集まっていた。 ■ バトル直前。 サイドボードに納める装備を吟味しながら、マスターはわたしに言った。 「相手は近接戦闘のプロフェッショナルだ。ちょうどいい機会だ。練習させてもらえ」 「で、でも……ランティスさんはそういう雰囲気じゃなかったみたいですが……」 筐体を挟んだ向こう側のアクセスポッドから、いまだ剣呑な視線がわたしを突いている。 「むしろ好都合だ。こんな草バトルなのに、向こうは真剣勝負で来てくれる。こんなチャンスは滅多にない」 「はあ……」 マスターは楽しそうだ。 その相手に睨まれてるのはわたしなんですけど。 ランティスさんに、圧倒的な力でねじ伏せられるとは、マスターは考えないのだろうか? ランティスさんは、近接格闘戦のみなら、秋葉原で最強クラスだという。 ということは、近接格闘戦でなら、雪華さんをもしのぐ、ということではないのだろうか? しかもステージは『塔』。 地上戦闘用の神姫同士ならば、丸く区切られた、何の障害物もない、まるで円形闘技場のような場所でのバトルになる。 小細工の入る余地もない、真っ向勝負になる。 そんなステージで無敵のランティスさんとわたしで勝負になるのだろうか。 そんなことを思いながら、マスターを見上げる。 するとマスターは微笑んでくれた。 「心配するな。いつも通りにやればいい」 「はい……って、サイドボードに火器が登録されていませんけど……?」 「ああ、相手は武器を持たないんだろ? だったらせめて、近接武器だけにしておくのが礼儀と言うものだろう」 「どこがいつも通りなんですかっ」 マスターが相手を侮っているとも、面白がっているだけとも思えないけれど。 相変わらずマスターの考えはわたしにははかりしれない。 「よし、はじめよう」 わたしと筐体が形作るバーチャルフィールドをつなぐ、アクセスポッドが閉じてゆく。 外の光は、細い一筋の線となり、やがて真の暗闇に包まれる。 一瞬の浮遊感。 意識される対戦カードの文字列。 『ティア VS ランティス』 次に目を開いたとき、わたしは巨大な塔の中にいた。 そして、わたしの視線の先。 ランティスさんの姿があった。 ■ 「ナイフ……?」 ランティスさんはわたしを睨みつけながら呟く。 わたしの手には、大振りなコンバットナイフが一本。 逆手に持って構える。 ランティスさんのまなじりが、さらにつり上がった。 「貴様ッ……銃器も持たずに……舐めてるのか!?」 「いえ、その……マスターの指示で……」 「ふざけるなッ!! もう許さん……一気に決めてやるッ!!」 ランティスさんはそう言うと、両手を顎の前に構え、そのままわたしに向かって突進してきた! 一足飛びに距離を詰めてくる。 わたしはまだ動き出せずにいる。 右ストレートのパンチ。 ランティスさんの、分厚い手甲を着けた腕が、大気を裂いた。 「ハァッ!!」 「わわっ!?」 これほどに速いパンチははじめてだった。 わたしはなんとかかわすだけで精一杯。 でも、ランティスさんの動きは止まらない。 パンチを繰り出した姿勢から、上体を崩し、身体を回転させる。 わたしは瞬時にランティスさんの意図を悟った。 これはわたしが得意とする格闘技と動きが同じ。 このあと、ランティスさんの脚が跳ね上がり、かかとがわたしを狙い打つはず。 はたして、彼女の脚部アーマーに覆われたかかとが空を切る。 「むっ……」 ランティスさんが姿勢を戻したときには、わたしはすでに彼女の攻撃範囲から逃れ、間合いを取っていた。 そうでなければ危ない。 ランティスさんのパンチもキックも、神姫を一撃で破壊するに足る威力を持っている。 「少しはやるようだな……」 ランティスさんは落ち着いた口調でそう言うと、わたしの方を向いて構えを取った。 彼女の装備は、騎士型サイフォス・タイプの軽装アーマーのアレンジ。 銀色の装甲が鈍く光る。 隙のないその構え。 ランティスさんの姿が何倍にも大きく見える。 わたしも腰を落として構える。 そして、走り出した。 中編へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/mekameka/pages/2621.html
悪魔城ドラキュラ ギャラリー オブ ラビリンス 【Castlevania Portrait of Ruin】 メーカー コナミ 発売日 2006年11月16日 対応機種 DS 悪魔城ドラキュラシリーズの一つで、バンパイアキラー??の続編に当たる ゴシックホラーな雰囲気のサイドビュー探索アクション 2人の主人公を切り替えながら進めましょう 関連 悪魔城ドラキュラ ハーモニー オブ ディスペアー
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1872.html
5.ショッキング・ショッピング 「へえ、結構賑わってるもんだねえ」 土曜日の夕刻、僕達はその筋では有名だと言われている神姫専門ショップへと足を運んでいた。一通りの説明を受けたあと、「やっぱり実際に扱ってる店に行ってみたいな」という僕の要望に応えて、若山さんが連れてきてくれたのだ。品揃えはもちろんのこと、サポート体制も充実しており、若山さんの一押しショップなんだとか。 『ホビーショップ・エルゴ』、それがこの店の名前だった。 「それにしても、年齢層とか性別とか……随分ばらばらだね」 正直に言って、僕が武装神姫に対して若干マニアックなイメージを抱いていたことは否定出来ない。いくら最先端のロボットとはいえ、元々は女の子の形をしたフィギュアなわけだし。だから、こういう店の客層も、もっと野暮ったい……そう、僕みたいな雰囲気の男性客が多いものと思っていた。 ところが実際にはそんなこともなく、下は小学生から上は老齢のお爺さんお婆さんまで、更に家族連れや女子高生、果てはカップルなんかまでいたりする。僕みたいな存在の方が逆に浮いて見えるくらいだ。 「イメージと違ったでしょ~。それだけ神姫の存在が世の中に浸透してきてるってことよね~」 考えてみれば、若山さんだって『女の子フィギュア』の世界からは程遠い人間に見える。即ち、武装神姫はもはやただの『女の子フィギュア』ではなく、小さな友達あるいはパートナーとして、世間に受け入れられているということなのだろう。 「ま、そんなことはさておき……ここに来て最初に見るものといえば、やっぱりアレよね~」 若山さんがスキップしながら店の一角へと向かう。右も左もわからない僕が一人で店を回れるわけもなく、とりあえず彼女の後についていくことにした。大地は「俺は見飽きたからいいよ」なんて手をひらひらさせていたけど、一体何なのだろう。 若山さんがやってきたのは神姫用の服飾売り場だった。人間用のそれに勝るとも劣らない、多種多様なデザインの衣装が所狭しと展示されている。ただし人間の着る服とは違い、一目見て奇抜なデザインのものが多いことがわかった。 「わ~、すごいですね」 初めて見る衣装の数々に、ノエルはミツバチのようにあっちへ飛んだりこっちへ飛んだりしている。そんなノエルの様子を、若山さんがにこにこしながら眺めていた。 「やっぱり女の子には可愛い服を着せてあげないとね~。さてさて、ノエルちゃんにはどんなのが似合うかしら~……」 若山さんの表情が一変し、職人の顔が現れる。服飾デザインのエキスパートである彼女だ、そのセンスに疑いの余地はない。僕が見繕うよりは遥かに良い物を選んでくれるだろう。 「じゃ~ん、これなんてどうかしら~」 若山さんが誇らしげに手にしたのは、レース生地をふんだんにあしらったふりふりドレスだった。なんというか、すごくふりふりである。徹底的にふりふりである。 ……うん、落ち着け僕。 っていうかこれ、センス云々じゃなくて、若山さんの趣味なんじゃないか? 「うわあ、可愛いです~」 そのあまりのふりふりっぷりに僕が呆然としているにも関わらず、ノエルはきらきらした目でそのドレスを食い入るように見つめている。まあ確かにノエルに似合いそうではある、が……。 「なんというか、すごいね……ノエルはそういうのが好きなのかい?」 ようやく絞り出した僕の言葉に、若山さんがちっちっち、と人差し指を振る。って、何故かノエルまでそれを真似してるんだけど。 「甘いわよ~狩野クン。女の子はね、生まれながらにしてお姫様ドレスに憧れるものなのよ~」 自信たっぷりに言ってのける若山さんに、うんうんと頷くノエル。僕にはよくわからないが、そういうものなのだろうか。 「ほらほら、ぼーっとしてないで狩野クンも選んであげなさいよ~」 若山さんが僕を急かすが、残念ながら僕に女の子の衣装を選べるような器量はない。僕が正直にそう告げると、何故か若山さんはにまーっと笑って僕に耳打ちしてきた。 「最初に買ってあげるものくらい、自分で決めた方がいいわよ~。センスなんかより、女の子にとってはそういう『気持ち』の方が大事なんだから。ノエルちゃんもきっと喜んでくれるわよ」 そう言いながらガッツポーズなぞ決めてる若山さん。どうにも何か企んでるような気がして仕方ないのだが……。 まあそれはともかく、確かに自分で決めるべきだという意見には一理あると思う。僕はない知恵を絞りつつ、ノエルに似合いそうな衣装を考えてみた。 「さ~て、じゃあ私もめろんに新しい衣装買ってあげようかしらね~」 意気揚々と歩き出す若山さんを、その右肩にちょこんと座っていためろんが慌てて止める。 「え、あ、いやご主人。儂はこの衣装が気に入っておる故、他の衣装など……」 「あら~嬉しいこと言ってくれるわね。でもそれとこれとは別なの~。さ、行きましょ」 「ちょ、待っ、みいやーっ!」 首根っこをつままれ、さながら本物の猫のように連行されるめろん。何だろう、そんなに困るようなことなのかな。 「暁人さ~ん、素敵な服がたくさんありすぎて迷っちゃいます~」 困ったような口調とは裏腹に、とっても嬉しそうな顔のノエルが僕の肩に着地する。そんなノエルの頭を、僕は軽く――やりすぎるとまたノエルが脱力して大変なことになってしまうので――撫でてやった。 「まだまだ時間はあるからね。ゆっくり選ぼうか」 「はいっ!」 そんな風に二人であれやこれやと物色しているうちに、一着の衣装が僕の目に留まった。 それは黒を基調にしたシンプルなデザインのドレスだった。煌びやかな装飾こそないものの、各所にさりげなく意匠がこらされており、決して地味さを感じさせない。なんとなくだけど、ノエルに似合いそうだと思った。 「ノエル、こういうのはどう?」 「わあ、素敵……あ、でも私に似合うでしょうか……?」 大人びた印象のドレスを前に、一度は目を輝かせたノエルだが、すぐに不安そうな表情になる。自分に似合うかどうかが、気にかかるのだろう。 「着てみればわかるよ。とりあえず試着してみたら?」 しばし悩むような素振りを見せていたノエルだが、僕がドレスを押し付けるように手渡すと、意を決して神姫用の試着室に飛び込んでいった。『神姫用の試着室』なんてものがある辺り、ここの店主は神姫に対して相当な思い入れがあるんだろうなあ、などと思う。 そんな事を考えていると、不意に後ろから馴れ馴れしく声をかけられた。 「あっれー、狩野先輩じゃん!」 誰だろう、会社の後輩に僕のことを『先輩』と呼ぶヤツなんかいたかな、などと思いながら振り返る。そこには、ボーイッシュな美人顔が目の前にあった……そう、目の前十センチの場所に。 「うわあっ!」 思わず飛びすさり、十センチの距離を二メートルまで引き離す。反射神経っていうのはすごいな、運動が苦手な僕でもこれだけの敏捷性を発揮出来るんだから……じゃなくて! 「おっしーい。もうちょっとで狩野先輩のキスゲット! だったのにー」 僕を脅かした張本人は、唇に指を当てながらそんなことをぼやいている。こらこら、公衆の面前でそんなことを開けっぴろげに言うんじゃない。 こほん、と一つ咳払いをし、冷静さを取り戻そうと努める……心臓が凄い速さで「そんなの無理だ」と訴えてくるが、そうも言っていられない。 「あー……うん、久しぶりだな、三潮」 どうやら心臓の訴えは正しかったらしい。何しろ、なんとか絞り出した言葉がこれだ。目の前の美人はそんな僕の様子にクスクスと笑っている。 「お久しぶり、先輩。変わってないねえ、色々と」 「お前の方こそ相変わらずだな。その何かにつけて人をからかう癖、いい加減直したらどうだ?」 「却下。先輩からかうの楽しいんだもん」 僕はこめかみを押さえて呆れた様子をアピールするが、全く意に介してないようだ。本当に、全然変わっていない。 彼女は三潮環(みしお たまき)、僕の大学の後輩だ。知り合ったきっかけは、確か研究室見学か何かで彼女が僕のところに来たことだったと思う。第一印象は「落ち着いた雰囲気の真面目そうな女性」だった。もっとも、その印象はわずか三十分で崩されたわけだが。 「それはそうと、お前何でこんな所にいるんだ?」 僕の疑問は、僕の立場からすれば至極当然のものだった。何しろ僕達が卒業した大学は、ここから特急を使っても四時間以上はかかる場所にあるのだ。 僕の出身はその大学がある地方なのだが、就職先がこちらだったので引っ越してきた。決して大きな大学ではないので、大半の卒業生は地元あるいは近郊都市に就職するのが常であり、僕みたいに遥か遠方へと出向く人間は極めて少ない。無論、可能性はゼロではないにせよ、この町に僕と同じ大学の卒業生がいるというのは非常に考えにくいことだったのだ。 「先輩を追いかけてきちゃいましたー」 「嘘をつくな。それから似合ってない」 語尾にハートマークでも付きそうな可愛らしい声でそうのたまう三潮。実際のところ、その様子は反則的なまでに可愛いのは事実であり、大抵の男はこの笑顔にころっと騙されてしまうだろう。だが、この笑顔に散々苦渋を舐めさせられてきた僕にはもはや通じない。 僕はすかさず斜め三十度の角度で三潮の前頭部にチョップを叩き込んだ。彼女を黙らせるにはこの角度が最適であるということも、大学で学んだことだ。いや、そんなことを学ぶ為に大学へ通っていたわけではないんだけど。 「いったー! ちょっと先輩、女の子に手上げるなんて酷いんじゃない!?」 「お前は例外だし、僕はもっと酷い目にあってるからいいんだ。で、本当の理由は?」 「だってアタシの家、この近所だもん。春に大学卒業して帰ってきたのよ」 恐ろしいことをさらりと言ってのける。 つまり何か、僕はこれからこの悪魔の棲息圏内で生活しなければならないわけか? 大学を卒業してから今日までの二年と数ヶ月は、仮初めの平穏に過ぎなかったということなのか? 瞬間的に脳内を妄想が駆け巡り、その直後、僕は彼女に向けて右手を掲げていた。 「じゃ、そういうことで」 「こら、逃げるな」 逃走失敗、僕の首は三潮の両腕でがっちりと絞められていた。く、苦しい……っていうか、体を密着させるな、背中にむ、胸が当たっ……! 「狩野クン~、こっちは終わったわよ~……って、あら?」 僕の意識が色んな意味で飛びそうになったその時、買い物を終えたらしい若山さんが戻ってきた。僕と三潮の様子を不思議そうな顔で眺めている。ちょっと待て、もしかして変な誤解をされてるんじゃないか。 「……ん? んんー?」 一方の三潮は何を思ったのか、僕を解放するとつかつかと若山さんに歩み寄っていった。前から横から若山さんを眺めては、「むー?」などと唸っている。一体どうしたというのだろう。 「ひょっとして……成海?」 「そうよ~、たまちゃん」 「その呼び方はやめてー!」 どかーん、と効果音でも出そうな勢いで両の拳を突き上げる三潮。そんな三潮のことなどお構いなしに、若山さんはニコニコといつもの笑顔だ。というか、何なのだろうこの展開は……。 「何、二人ってひょっとして知り合い?」 「高校の同級生なのよ~」 のんびりと答える若山さん。一方の三潮は、何を言ったものかといった様子で口をぱくぱくさせている。普段から怖いもの知らずの彼女がこれだけ動揺するとは珍しい。二人の過去に何かあるのだろうか。 「あ、あのー……」 控えめな声に振り返ると、ノエルが試着室から顔だけ出してこちらを見ていた。いかんいかん、三潮のペースに乗せられて彼女のことを忘れるところだった。 「どう、ちゃんと着れた?」 「はい……ちょっと、恥ずかしいですけど」 おずおずと姿を現すノエル……その姿に、僕は思わず息をのんだ。 僕が選んだドレスは、僕の想像以上にノエルに似合っていた。白の素体と淡い金髪が、その漆黒の生地によって一段と際立っている。蝶を模したリボンが幻想的な雰囲気を醸し出し、その姿はさながらファンタジーの世界から飛び出した妖精のようだった。 「へえ……狩野クン、なんだかんだ言ってセンスいいじゃない。ノエルちゃんの魅力がしっかり出てるわよ~」 「そ、そうかな」 まさか若山さんからそんなことを言われるとは思っていなかったので、僕は思わず恐縮してしまう。三潮も若山さんの言葉にうんうんと頷いている。よかった、とりあえず悪いチョイスではなかったみたいだ。 「よく似合ってるよ、ノエル。じゃあそれを買っていこうか」 僕がそう言うと、ノエルはちょっと恥ずかしがりながら、でもとても嬉しそうに頷いてくれた。 「折角だからさ、ちょっとバトルしていかない?」 暇そうにぶらついていた大地も合流して、一通りお互いを紹介しあった後、三潮がそんなことを提案してきた。彼女の言うバトルというのは、神姫関連のアミューズメントの一種である『神姫バトル』のことだ。ノエルもそうなのだが、『武装』の名を冠するだけあって、彼女達はそれぞれのモデルに応じた武器などを装備し、戦闘を行うプログラムが組み込まれている。この戦闘用AIと各種武装を用いて、多くのオーナーと神姫が力を合わせて戦う……それが神姫バトルと呼ばれるものの本質なんだとか。 「僕は構わないけど……ノエルはそういうの大丈夫なのかい?」 どれだけ説明を受けても、この小さな女の子達が武器を手にして戦う姿というのが想像できない。恐怖とか、そういうのはないんだろうか。そう思って問いかけた僕の言葉に、ノエルは意外にも胸を張って答えた。 「任せてください! 私も武装神姫として、戦いに赴く覚悟は出来てます!」 おお、頼もしい言葉だ。まあ、本人がやる気を出してるのを無理に止める必要もないだろう。バーチャルシステムによるバトルらしいから、怪我をする心配もなさそうだし。 「ま、案ずるより産むが易し、ってね。それじゃ、行こっか!」 意気揚々と歩き出す三潮の後についていく。正直に言えば、全くの新しい体験に、僕自身も心が浮かれているのを感じていた。僕の小さな天使は、一体どんな戦いを見せてくれるんだろうか……。 「あれ、そういえばめろんは?」 ふと、あの騒々しい猫侍の姿がないことに気付く。すると若山さんは、とても楽しそうな、それでいて何かを企んでいるような笑顔で、手に持ったケースを指差した。 「大丈夫、この中にいるわよ~。後でお披露目してあげるから~」 かくして、全身をふりふりの衣装にコーティングされた――大袈裟ではなく、そう表現するのが適当なくらいのふりふり具合だった――めろんの姿を目の当たりにしたのは、その五分後のことであった。 4.猫侍、見参 TOP
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2848.html
日曜。大抵の人は休日としてこの曜日を満喫するだろう。 ある者は家でのんびり、ある者は気晴らし外出、あるいは他の事…? まぁ、それは人それぞれに任せるとしよう。 ちなみに俺、『獅子堂 竜馬』の場合は秋葉原へプラモ物色しに行く。自転車で。 (むぅ…迷う) 俺はそんなことを思いながらアキバの某量販店にてプラモの品定め。 しかし、たとえいざ決まったとしてもなかなかレジに向かえないのはいつもの事だ。 ガチで欲しいと決めた奴はすぐ購入に移れるが、ふらりとやってきてピンときたのを手に入れるときはいつも足踏み… 「…別の店に行ってみよう」 結局保留だよ。 俺のアキバでの探索場所は専ら量販店か中古ショップだ。あとア○メイト。 メイド喫茶?行かねぇよ高いらしいし。 思えば、高校に上がってからアキバに来るようになったな… 資金は使い道が見つからないまま貯まっていったお年玉やお小遣い、あと偶然拾ったりする小銭。 多少デカイ買い物する位はあるが、なんか怖くて迂闊に使えない… ちょくちょくガ○プラとか買ったりはしているが、まだ有り余ってるよ。 郵便局預けによる利息で微妙に膨れているから、PCいけるんじゃないかというほど。 中古ショップに寄ってみるも、目ぼしい品は今のところ無い。 ある日に行ったら置いてあった品が、次の週に行ったら消えてる、なんてことは中古ショップではあることだ。頻度は知らんが。 それでも一昔前のプラモを手に入れたことはある。確かア○シマの金ピカガ○ファ○ガー(ゴル○ィオン○ンマー付き)だったはず。 そんなこんなで中古ショップを出た俺は、気分的にふだん行かない店に向かってみることにした。 プラモかフィギュアの売ってそうな店を探していると、ある店に目がとまった。 ほとんど客のいない店内を少し覗いてみると、見かけはすれど詳細はよく知らなかったものが売られていた。 店に入って「あぁ…、そういやこんなのもあったな」と心の中で頷いた。 『武装神姫』、巷で話題になってるとかいう少女型のフィギュアロボだ。 量販店などにも積まれているうえ、神姫の主、所謂『オーナー』とか『マスター』が連れ歩き、ゲーセンやら神姫センターやらでのバトルを俺も見かけるけど、高額かつ守備範囲外だったので、いつもはスルーしている。神姫センターには寄った経験無いが。 ついキョロキョロしながら店内を散策してしまうと微中年(30代後半位?)の店員から「神姫をお迎えかい?」と聞かれた。 俺は「ぁ、ちょっと眺めてただけです」と答えた。話しかけられるのは苦手なんだよなぁ…一瞬ビクついちまったし。 ちなみに『お迎え』というのは、神姫を露骨に”物”扱い出来ない神姫マスター達による『購入』の意味。 流石に退散しようかと思っていた矢先、 カチャン なんか物音が。 ちょっと訳ありで少々物音に敏感なのでつい音のした方を見てしまう。 何か落ちたのかと棚から床にかけて視線を動かす。 なんかいる~!? 入口近くの棚と床の隙間に、何か動くものが…まさか”G”じゃあるまい!?ぃやいやそれはない、明らかに硬質な音だった。 恐る恐る近づき隙間を覗き込むと… …神姫? どうやら”G”ではなく神姫がいたようだ。”G”だったらマジやばかった…苦手なんだよ、アイツ。 よく見ると、かなり損傷しているようだ。身につけてる防具が大分破損しているっぽい。 軽く手招きしてみると、怯えながらゆっくり這い出てきた。 ぎこちない動きだったが、片腕を欠損、脚を引きずるほど弱っていたためらしい。流石に絶句したよ。 回収するや否や、店員に見せてみた。 トップページへ プッチ神父『メイド・イン・ヘブン!(次話へ)』 露伴『ヘブンズドアー!(裏話へ)』
https://w.atwiki.jp/eu021alm/
ここは、 エウシュリー『天結いラビリンスマイスター』 攻略wikiです 誰でも編集することができます。より良いサイトにするために協力をお願いします。 【お知らせ】 『天結いラビリンスマイスター パーフェクトガイドブック』 がKADOKAWA様より発売中です! アペンドディスク付きです☆ 公式販促ページ(KADOKAWA) アペンド詳細 ■最新アップデート情報■ 2021/8/6 Ver1.03アップデート 現在Ver1.03アップデートファイルが配布されています。 公式サポートページ Ver1.03ダウンロード直リンク ●Ver1.03修正内容 APPEND02以降用の制御を追加 ユニットを「基本順」「加入順」でソートした時の表示パラメータをNoからLvに変更 編成画面でユニットのソートが正しく行われない場合がある不具合を修正 「行動前に戻る」実行時に味方ユニットのパラメータが正常に更新されない場合がある不具合を修正 ユニオンスキルの効果が正常に適用されない場合がある不具合を修正 簡易戦闘時に迷宮画面の表示が一部乱れる場合がある不具合を修正 誤字脱字を修正 その他、細かな不具合を修正 過去アップデート履歴 ■利用上の注意とお願い■ サイトの性質上、予期しない ネタバレ に遭遇する可能性があります このwikiでは、一部にJavascript及び機種依存文字(ローマ数字)を使用しています このwikiに記載されている情報は、基本的にゲームの 最新Ver についてのものです ゲーム攻略に関する 質問をする前に、wiki内を検索 してください 検索しても解決しなかったら 掲示板 で質問してください 編集する人向け 個人が運営しているサイト等からの転載は、トラブルの原因になる恐れがあるのでしないでください 他の人が書いたものを消したり修正するときは、十分気をつけてください 関連リンク 製品公式サイト(天結いラビリンスマイスター) https //www.eukleia.co.jp/eushully/eu021.html エウクレイア(エウシュリー&アナスタシア) http //www.eukleia.co.jp/eushully/ 天結いラビリンスマイスター パーフェクトガイドブック (KADOKAWA) https //www.kadokawa.co.jp/product/322109001031/ 製品情報 タイトル 天結いラビリンスマイスター[アダルト] ジャンル 異国探索+魔術構築+戦術SRPG 発売日 2021年7月21日発売予定 販売価格 10,780円(税別9,800円) 販売区分 パッケージ販売(18禁)・ダウンロード販売(18禁) 品番 EUDV-021 メディア DVD-ROM 原画 夜ノみつき・やくり・うろ シナリオ 花咲樹木・横比良こゆき BGM Emotional Union 主題歌 『innocent knots』歌:佐咲紗花
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/355.html
前へ 先頭ページへ 例えるなら、それは羊水の中を漂うようで。 それは春の木漏れ日の中で日光浴をするようで。 それは絶景を肴に露天風呂に漬かる様で。 ひどく心が休まり、心地が良く、そのまま永遠に過ごしたくなる様な。 それはまるで麻薬の用に五臓六腑に染み渡り、無意識の海にそのまま沈んでいたくなる。 この世で最も過酷な事は、睡眠をとらない事だろうと俺こと倉内 恵太郎は混濁した意識の中でぼんやりと考えていた。 「……ス…………だ…が…………お………」 誰かが俺に話しかけてくる気がしないでもないが、人間の根本に存在する三大欲求の一つに抗って応えられるほど俺は人間が出来ちゃいない。 そんなこんなで狭いシングルベッドの上で毛布に包まり、再び惰眠を貪ろうと身体を捩らせた。 その瞬間、俺の毎日のささやかな幸福の時間は非情にもすっ飛んでった。 頭部に奔る鈍い激痛、頭蓋骨の中で轟音が響き渡るような錯覚。 そのお陰で、俺の意識は一気に覚醒してしまった。 「おはようございます、マスター。今日も清々しい朝ですね」 俺の相棒であるストラーフ型神姫のナルが専用装備である対神姫用実体剣「刃鋼」を小脇に携えて朝の挨拶をしてきた。 「ああ……おはよう」 俺は痛む頭を抑えながら、手厳しい目覚ましで起こしてくれた相棒に挨拶で反す。 朝が弱い俺をナルが刃鋼の腹で俺の頭をブッ叩く。 いつもと同じ清々しい朝だ。 「マスター、お目覚め早々ですが、一限目の講義まで後20分しかありません」 全く、鬱陶しくなるくらいにいつもと同じ清々しい朝だった。 俺は県内の大学に通っている。 工業系、主にロボット工学がメインの大学で、そこそこ名が知られているらしく時折テレビの取材がくるらしい。 もっとも、三十余年前までは余り人気が無くて経営はやばかったらしいが、今は何処吹く風と言うほどの盛況ぶりだ。 情報技術が発達し終えたと言われた202X年、世界は低迷していた。 医学・物理学・天文学・情報工学、人類の主要な技術の殆どが発展を終え、進化の袋小路に追い込まれていた。 世間では世紀末だのノストラダムスの予言だの騒いだらしく、暗黒時代とも呼ばれたらしい。 そこに救世主の如く現れたのが、ロボット工学と情報工学そして人間心理学それら全てを終結させた全長15cm、心と感情を持つMMSと呼ばれる機械仕掛けのお姫様である。 大手玩具メーカーから発売されたMMSは瞬く間に普及し、ありとあらゆる分野に応用され始めた。 大抵のMMSは有効利用されたが、中にはあくどい事に利用する輩も多くいた様で、一介の玩具のために多くの法律が制定されたらしい。 他にも色々と問題があったらしいが、今や過去の話。 MMSは、我々人類の新たな友人として必要不可欠の存在となっている。 そんなこんなで我が大学のロボット工学部の主な内容は殆どがMMSについてである。 我が大学にある学科は四つあり、俺はその内の一つである「MMS環境心理学科」に所属している。 何だかご大層な学科名だが、やっていることは単純明快。神姫バトル、である。 一応は「MMSと人間との心理作用による行動ロジックの云々」とかいう大層な理念が掲げられているが、要は将来有望なランカーを育成し、大学を宣伝しようという口である。 もっとも、設備においては国内随一を誇るので競争率は非常に激しいので大学としてはウハウハだろうが。 まあ、この大学はそういった専門的な設備だけでなく、その他のレジャー的設備も整っているのも人気の一つだと思う。 現に今、俺が食っている食堂のネギトロ丼も毎朝築地から活きの良いのを仕入れてくるらしく、そんじょそこらの寿司屋よりよっぽど上手い。 その上、値段も3桁と採算がとれるのかどうか心配になるほどのコストパフォーマンスを発揮している。 学生の身分故、常時金欠な事を考えるとこの食堂は正に天国だった。 「よう、恵太郎!」 俺が数少ない幸福を噛み締めていると頭部に鈍い痛みが奔り、むさ苦しい声も聞こえてきた。 思わずネギトロを吹き出しそうになるが歯を食いしばって堪える。 「……裕也先輩、人が飯喰ってる時に頭小突くのやめてもらえませんか?」 「おう? 男が細かい事気にすんなっての!!」 この図体がでかい筋肉ダルマは一応俺の先輩に当たる人で、名前は佐伯 裕也。 毎度毎度人の頭を小突くかなり傍迷惑な筋肉ダルマだ。 「こんにちは、佐伯さん」 しかし、俺の相棒は筋肉ダルマにも嫌な顔せずに挨拶を交わす。 いやはや、良い娘に育ったものだ。 「こんにちはなのだ~!」 筋肉ダルマの代わりにナルの挨拶に応えたのは筋肉ダルマの武装神姫、マオチャオ型の蒼蓮華だ。 今まで何処に居たのか知らないが、今はテーブルの上でナルに向かって骨法の構えを取っている。 「いざ、尋常に勝負なのだ~!」 「おう、そうだ! 今日こそ俺らが祝杯を挙げる日だ!!」 そう言うなり筋肉ダルマはテーブルに拳を叩きつけた。 「っと、冗談は筋肉だけにしてくださいよ」 まだ食べかけのネギトロ丼が激しく揺れたので、両手に抱えて空中に避難させる。 「裕子先輩ならまだしも、何度も何度も同じ相手と戦っても意味無いでしょう。」 「ふっふっふっふっふ……」 筋肉ダルマと蒼蓮華が揃って腕組をしながら怪しく笑った。 「何ですか、不気味ですね」 「コイツが何だか、解るか?」 そして懐から一枚の紙切れを取り出した。 どうせまたプロレスやら何やらのチケットだろう。 以前にも同じパターンは何度もあったし、二年も同じ事をやっていれば嫌でも学習する。 とりあえずはネギトロ丼を腹に注ぎ込んで、適当にあしらって午後の講義に備えよう。 確か午後は一般科目だった筈だ。 「マスターの姉上、裕子様の夏祭りでの浴衣ブロマイドなのだ~!」 「どうだ、恵太郎。これを賭けると言ってもまだ首を縦に振らないか?」 「放課後、第四バーチャルマシーンセンターの前で待ってます」 ナルの視線が痛かった。 時刻は午後5時過ぎ。 確か筋肉ダルマも今日の講義は全て終わっている筈なのだが……。 「遅い」 思わず声に出してしまった。 ナルはとっくの昔からトレーニングマシーンで模擬戦闘を繰り返している。 それを横目に俺は三本目の缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に投げ入れた。 思えば、あの人に『放課後』と言って講義終了後直ぐに来るとは思えないのも確かだが。 ほんのり嫌気が刺してきて、ぼちぼち帰ろうかと思い出したその瞬間に聞きなれてしまった大声が聞こえてきた。 「よぉ、待たせたな!」 余りの能天気振りに怒る気力も消え失せた。 「……先輩、とっととやりましょう」 溜息の一つもついてやりたかったが、一応堪えておいた。 「尋常に勝負なのだ~!」 蒼蓮華は今まで何処に居たのか、何時の間にかバーチャル・バトルマシーンのクレイドルの上で仁王立ちしていた。 「ナル、準備は良いかい?」 「何時でも」 トレーニングンマシーンから出てきたナルに一応確認を取り、蓮と筋肉ダルマが待つバーチャル・バトルマシーンへと向かう。 「先輩、例のブツはちゃんと持ってきていますよね?」 「おう、男に二言は無ぇ!」 バーチャル・バトルマシーンのディスプレイを挟んで筋肉ダルマに今回の最優先事項を確認する。 「なら結構。では、始めましょうか」 「応ッ!」 バーチャル・バトルマシーンに備え付けられたクレイドル。 私はその上に横たわり、無線通信回路を開く。 頭部コアユニットからバーチャル・バトルマシーンへと、自身のあらゆるデータが転送されているのを感じる。 まるで頭の内側を何かが這い回るような奇妙な感覚。 それに伴い、私の身体の感覚が少しずつ消えていく。 最初に触覚。 背中に当たっていたクレイドルの感覚が感じられなくなる、というより重さを感じられなくなる。 次に嗅覚。 少し油臭いバーチャルマシーンセンターに充満する空気が感じられなくなる。 そして聴覚。 ごぅ、という空気の流れる音や、モーターの駆動音が一切聞こえなくなる。 最後に、視覚。 視界に映る高い天井がまるで夜の闇に溶け込む様に黒く塗り潰されていく。 身体の感覚が全て消えたその瞬間、意識が飛んだ。 今のこの身体には何も感じない。 モノに触る事も、モノの匂いを嗅ぐ事も、モノの音を聞く事も、モノを視る事も叶わない。 ただ一つ感じる事。 私の精神を司る電子の魂が、本来の機械の身体を離れて異なる場所に向かっていると言う事。 ソレを感じている時間は、実際には数秒程度だろうか。 その奇妙な感覚が薄れるのと逆に、身体の感覚が甦ってくる。 最初に触覚。 足の裏側から地面の反力。頬を撫ぜる湿っぽい風。いつもと違う重さを感じる。 次に嗅覚。 噎せ返るような木の匂い。生ぬるい風の匂い。現実は異なる匂いを感じる。 そして聴覚。 野鳥などの羽音や鳴き声。草と草が擦れ合う音。そして聞きなれた駆動音を感じる。 最後に、視覚。 まるで夜が明ける様に視界がクリアになっていく。 全身の感覚が元に戻る。 一つ違う事、それはこの身体が0と1との信号によって作られた仮想現実の身体であること。 そして普段の非武装形態ではない事。 今の私は戦闘形態。 右腕は高出力粒子砲と化し、左腕は巨大な腕と剣を持つ。 そして腰には追加アーマー。 我が主が自ら作って下さった、私の一番の宝物たち。 クリアな視界に映るのは、青々と生い茂る木々が立ち並ぶ熱帯雨林。 視界は生い茂る木々と立ち込める靄によって10sm先も確認できない程に悪い。 蒼蓮華も同じタイミングでログインしてきているのだろう。 ドップラーセンサを最大限稼動させ、動体を探るが……。 「ナル、このフィールドじゃセンサ類は恐らく役に立たない」 マスターの言うとおりだった。 動体を検出するドップラーセンサは検出する対象を制限できない。 よって、再現された野鳥や虫などの動体すらも検出してしまうので、センサには異常な検出結果がはじき出されている。 超音波センサはどうかと思ったがこちらも役に立ちそうに無い。 超音波センサは、超音波を照射して跳ね返ってくるまでの時間などの結果から対象の大きさや距離を検出するものだ。 だが、検出されるのは直ぐ近くの木々ばかり、肉視確認の方が余程視野が広い。 「この状況で最も有利なセンサ、それは……」 マスターの声にはっとする。 五感の中で視覚の次に重要視される感覚、それは聴覚。音、である。 密室かよほど入り組んだ地形で無い限り、音は関係なしに進んでいく。 それはこの仮想現実でも同様だ。 そして、聴覚センサがデフォルトで強化されているのは、ヴォッフェバニー、ハウリン、マオチャオ。 蒼蓮華はマオチャオ型。 ヴォッフェバニーより数段劣るとしても、私とは比べ物にならない。 それこそ、小さな駆動音からこの場所を探り当ててくるだろう。 この状況で最も有利な戦法、それは奇襲。 蒼蓮華は脚部に追加武装「紅蓮脚」を搭載している。 大出力のスラスターとショックアブソーバー、そして至射炸裂型榴弾。 簡単に言えば一撃必殺型装備。 当たれば大ダメージを受ける事は間違いない。 当たればだが。 「にゃんだぁぁ~~~きぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅ!!」 大声を上げ、右方向から水平に蹴り込んで来た蒼蓮華を軽いバックステップで避ける。 「にゃ!? にゃにゃにゃにゃにゃ~~~~~~」 勢いを殺しきれず、進路にある木々を蹴り倒しながら突き進んでいく蒼蓮華を見送る。 「またか……」 マスターの溜息混じりの声が聞こえてきた。 私も溜息をつきたくなった。 大人しく黙って奇襲すれば良いものを、何でわざわざ大声なんか出して自分の居場所を知らせるのか。 以前聞いたときは「そこにロマンがあるからなのだ~」としか言わなかった。 私には理解できないが、当人にとっては大事な事なのだろう。 もうやる気が八割くらい無くなって気が緩んだ、その瞬間。 「隙ありなのだ~!」 何時の間に近づいていたのか、顔面目掛けて回し蹴りをかまそうとする蒼蓮華の姿があった。 マオチャオの消音機能はMMSの中でも随一であり、蒼蓮華も健在のようだ。 「……っ」 刃鋼で何とかガードしたものの、足の踏ん張りが効かずに吹き飛ばされた。 すぐさま体勢を立て直そうとするが。 「まだまだなのだ!」 宙を舞う私目掛けて、蒼蓮華が一気に飛び込んできた。 一瞬。ほんの一瞬で蒼蓮華の顔が間近に迫っていた。 瞬発力だけで言えば、神姫の中でも随一だろう。 何時もは「なのだ~」とか言いながら能天気な顔をしているが、今の顔つき、そして目つきは真剣そのものだ。 その真剣な眼は確かに私の頭部を見つめている。 まるで野生のライオンが得物に飛び掛る瞬間、そんな眼だ。 蒼蓮華の右足が頭部目掛けて迫ってくるのを視界の隅で捕らえた。 萎んだやる気が膨らんできた。 頭を切り替える。 戦う事だけを考える。 勝つ事だけを考える。 それが武装神姫たる私の存在意義であり、マスターもそれを望んでいる……今回は微妙だが。 全身に備え付けられた推進装置の全てをフル稼働させる。 ただし、右側だけ。 均衡を崩した私の身体は独楽の様に回転した。 回転のエネルギーを乗せる様に、右腕の銃鋼をバックハンドブローの要領で錬の右足に叩き込む。 蒼蓮華の至射炸裂型榴弾のエネルギーと私の遠心力と質量を合わせたエネルギーがぶつかり合う。 そのエネルギーは衝撃となって蒼蓮華と私に等しく分布され、お互いに弾かれあった。 私は地面に刃鋼を突きたてて着地、衝撃を無理やりに殺す。 そして右腕を確認。 残っていたのは腕と銃鋼を繋ぐコネクタ部分のみ。 ぞっとする。 三又の粒子加速装置と一本の砲身は跡形も無く吹き飛んでいた。 対する蒼蓮華はおよそ10sm先で至射炸裂型榴弾を撃った際に生じたガスの中、仁王立ちしていた。 等しく分布された筈のエネルギーは、蒼蓮華の右足に傷一つ付けてはいなかった。 本当に、ぞっとする。 最初に声を潜めて奇襲していたら。 後ろ回し蹴りの時黙っていたら。 私は、多分負けていた。 銃鋼の接続設定を変更し、銃鋼をパージする。 地面を覆う腐葉土の中にドスっという音と共に沈んでいく。 そして左手の刃鋼を逆手に持ち替える。 インファイター相手には、この剣は長すぎる。 この間、数秒の隙があったが蓮は先程と同じく仁王立ちしたままだった。 私の準備が整うのを待っているつもりか……。 内心首を捻りながら、私は左手を前に半身の構えを取る。 「いくのだ~!」 それを見た蒼蓮華は掛け声と共に駆ける。 やっぱり、速い。 10smの距離をぐんぐん縮めてくる。 私と蒼蓮華との距離が3smを切った時、跳んだ。 私目掛けて両足を揃えて飛んでくる。 私の顔目掛けてその紅蓮脚を叩き込もうと飛んでくる。 しかし、蒼蓮華の紅蓮脚には欠点がある。 車は急に止まれないように。 弾丸が途中で曲がれないように。 その速度は時に欠点となりえる。 だから私は、身体を右に逸らして蒼蓮華の紅蓮脚をやり過ごす。 背中の補助スラスターやらセンサ類が蹴り飛ばされたが気にしない。 蒼蓮華と目が合った。 その眼に映るのは私だけ。 その眼に灯るのは戦意だけ。 その表情は、まさに戦士。 その顔に、私は振り上げた左手を叩き込んだ。 この左腕は殴る為のものでは無いが、元の神姫の腕より一回りも二回りも太いく大きい。 その上、刃鋼を持ったままなので更に質量が上乗せされる。 その一撃をもろに顔面に貰った蒼蓮華は、その衝撃で地面に叩きつけられた。 蒼蓮華は目をぐるぐる回し、頭上にはヒヨコがピヨピヨ飛んでいる……様に見えた。 「ぬぁぁぁぁ~!!」 「さぁて……先輩、出すモン出して貰いましょうか」 バーチャル・バトルマシーンのクレイドルから起き上がったら佐伯さんが頭を抱えて吠えていた。 それにしても、マスターの裕子さんフリークはどうしたものか。 現に目付きとか言葉遣いとか随分違う。 「……男の約束だ」 そういうと佐伯さんはマスターに一枚の写真を手渡した。 それを受け取ったマスターは一瞬、誰にも、私にも見せたことのない優しい表情になった。 「……確かに。ナル、帰ろう」 マスターはそう言うと私を抱えて胸ポケットの中に入れてくれた。 その前に蒼蓮華に挨拶しておこうと思ったが、それは出来なかった。 「あらあら、裕也。神姫バトルも良いけれど、モノを賭けるのは禁止してた筈でしょう?」 人影まばらなセンターに女性の声が響く。 その声を聞いた瞬間、マスターと佐伯さんは石像のように硬直した。 「約束を破る子には、オシオキが必要よね?」 その刹那、身体に急激な衝撃が加わった。 マスターが全速力で走り出したのだ。 その顔を見ると、まるで警察から逃れる銀行強盗のような切羽詰った表情をしている。 「恵太郎くんも……ダメじゃない」 「ゆ、裕子先輩……」 もう慣れたが、佐伯さんの姉上である裕子さんが何時の間にか目の前に立っていた。 私はとばっちりを受けないようにマスターの胸ポケットから飛び降りた。 「これは違うんです…」 「何も、違わないわ」 裕子さんはとても綺麗な方で、神姫の私から見てもとても魅力的な女性だと思う。 誰にでも、神姫にでも優しい裕子さんを嫌う人を私は見たことが無い。 ……もっとも、裕子さんを恐れる人なら幾らでもいるのだが。 「神姫は賭け事の道具じゃないとあれほど言ったのに……」 裕子さんは哀しそうな表情で一歩一歩マスターへと近づいてくる。 私は佐伯さんの事を思い出し、遥か後方を振り返った。 しかして、そこにいたのは佐伯さんだったモノだった。 その物体は真っ白くなり口から煙を吐いている……ように見えた。 余程恐ろしい目にあったのだろう。 ……そして、マスターも。 「も、もうしませんから許してくださいぃぃぃぃ~~~~」 「ダメ、絶対」 先頭ページへ 次へ